FOR YOU

5      オーロラの瞳
 
 
 
 
 
それは創世の女王様が旅の途中に見つけてきた物語。
自分の故郷を救うべく旅に出た女王様は、
その途中で一冊の本と出逢いました。
それは宇宙に散らばる星たちの観光名所を記したものでした。
その中に太古より伝わる恋人たちの伝説が載っていて、
女王様はそれをいたくお気に召したのだそうです。
そして自分の宇宙に戻ってきたときに
その伝説を形にして
愛する全宇宙の人々への贈り物としたのでした。
 
 
 
 
 小宇宙・アルカディア…今日は年に一度の夜想祭を迎えて人々は賑やかな時を過ごしていた。あたりには露店や遊技場のテントが並び、大人も子供も日頃を忘れてはしゃぎまくっている。その中でも特に目立っているのは愛し合う恋人たちの姿だった。深夜には全宇宙を司る女王からオーロラという美しい光の贈り物が届くことになっている。それを見た二人は永遠に結ばれるという伝説があるのだ。永久の約束を求めてあらゆる惑星から恋人たちが集まってきていた。
 特に日向の丘はオーロラを見るには絶好のポイントとして知られている。あっちを向いてもこっちを向いても恋人たちしかいない。そんな中に一人でベンチに座っている青年は非常によく目立っていた。『あの人ってハンサムよねえ』という良い意味でも、『それなのに一人なんだ』という悪い意味でも人目を引いていたため、本人はえらく不機嫌な顔をしていた。何度も煙草に火を付けて、煙を吸い込んでもライターを片手でもてあそんでいる。
「お待たせしました、ゼフェル様」
近くのコーヒースタンドから飲み物を買ってきた女性が彼のところにやってくる。ここでようやく安心したような、それでもまだごねている子供のようなふてくされた表情は崩さない。
「どうかしました?」
「…別に」
 長い栗色の髪の女性は、相手にコーヒーを一つ渡してその隣に座る。
「なあ、アンジェ」
「はい?」
「ここって…いつの間にこんなに観光地化されたんだ?」
そう問われてアンジェリークは首を傾げる。というより、ここは昔ながらの生活をそのまま残す観光地だったからだ。もちろん自分たちが別宇宙から飛ばされたときはそんな風ではなかったが。
「いいか? オレ達が初めてオーロラを見たときは二人っきりだったんだぜ。このだだっ広い丘に二人だけだったんだ。なのになんで今はあっちこっちでイチャイチャイチャ…」
どうやらそれが不服であるらしい。わざわざ『2人っきり』を強調するあたりがゼフェルらしさでもあった。
「別にいいじゃないですか」
「あのなあ」
「だってここで二人きりにならなくても私たちがもう離れることはないのでしょう?」
コーヒーをフウフウとさましながら、あの頃と変わらない笑顔を見せた。
「それに…他の人たちもお互い以外目に入っていないみたい」
 ゼフェルは呆れたようにため息をつき、アンジェリークはその様子を見てクスクスと笑った。
「そりゃそうかもな」
だったらもう誰に遠慮をする必要はない。アンジェリークはゼフェルの肩に自分の頭をそっと寄せていった。
「本当にいつまでもこうしていられたらいいな」
「ん?」
「いつか子供が産まれて、その子達が大きくなって、2人がおじいちゃんとおばあちゃんになってもずっとこうして肩を寄せ合っていられたらいいのに」
 まるで夢見るような口調で語るアンジェリークの肩をしっかりと抱き寄せた。
「私たちの故郷のある宇宙にも夜想祭と同じ伝説があるんですよ」
「本当か?」
「白き極光の惑星に、オーロラが見える場所があるんです。それを見た2人は必ず結ばれるって伝説があって…だから私、それをそのまま新宇宙に持ち込んだの。たとえどんなことがあっても愛し合う2人が幸せになれるようにって」
それはそのまま自分自身の願いでもあった。どんなに離れていてもいつかは結ばれると信じる気持ちは彼女が自ら抱いていたものだったのだから。
「いつか行ってみるか、白き極光の惑星。オレ達がじいさんとばあさんになったときにさ」
「本当に?」
「…そこでもオーロラが見られるとしたら、また生まれ変わっても出会える気がするからな」
 やがて夜空一面に光のカーテンが広がってゆく。それぞれに語り合っていた恋人達はその美しさに圧倒されて目が離せずにいるようだ。そしてベンチに座っていた2人は誰にも知られない形でそっと顔を寄せ合って唇を重ねていた。
 
 
 
 
END
 
 
 
 
ニューカウンターの555を踏んで下さった麻衣奈様から「ゼフェ温で創作を」という嬉しいリクエストを頂きました。有頂天になったまま完成したのがこれでございます。トロワのエンディングから数年後、お互いに任務を終えた二十数才前後でアルカディアで新婚生活を送っているという設定です。あまりのラブラブっぷりに思わず床の上を転がってしまいそうになること数回…麻衣奈様、砂吐いていませんかあー? クサクサな内容ですみませんでした。もしよろしかったらどうかこいつを捧げさせて下さいませ。どうかまた遊びに来てやって下さいね。
ちなみに白き極光の惑星の伝説は、トロワではなく天空の鎮魂歌のゼフェルとのイベント「オートマターは歌わない」に登場します。オーロラ=アリオスの印象が一般的に強いみたいですが、私はこのことしか思い浮かばない…本当にゼフェコレ好きなんだなあと再確認しちゃいましたヨ。
更新日時:
2003/02/23
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Last updated: 2010/5/20