1ST LOVE

9      Blue Sunshine   ーMADOKA&…ー
 
 
 
 
 
 ついさっきまで親友だと思っていた女の子の言葉はあまりにも衝撃的で、悠里に二の句をつなげさせてはくれない。
「以上、ライバル宣言終わり! それじゃね、バイバイ!」
くるりと背を向けて走り去ってゆく奈津実をそのまま黙って見送る。あの言葉には強い想いと意志があり、それ以上を彼女に問いつめることは出来なかった。
(姫条まどかが好き! 誰にも渡さない!)
本当は本人の目の前で言いたかったのだろうな、と悠里はぼんやり思っていた。自分だっていつもそう考えているのだから。
 公園の奥には小高い芝生の丘がある。悠里は奈津実が去った反対方向にあるその丘に登り、頂上のあたりで腰を下ろした。
「一世一代の大告白でしたね」
「まあ、そう言うんやったらそうなんやろね」
芝生の上でゴロンと横になっているのは話題の人物姫条まどかその人であった。バイトまでの時間をここでつぶしていたのだ。他人よりも鋭い耳を持つ彼は、もちろん全ての会話を聞いていた。
「告ってくれたんが悠里ちゃんやったら嬉しかったんやけどね」
「ほめ言葉だと思っていいのかな?」
「もちろんや」
二人はそこで目を合わせてフフッと笑った。
 まどかは身を起こして少し上に移動し、悠里の隣に並んで座った。
「ちゃかさないの! なっち…本気だよ」
「でもなあ、ついこの前まで男同士みたいな付き合いしとった子を急に女として見ろ言われても無理なもんやで? ましてああやって束縛されるのはどうも性にあわんのや」
常に可愛い子を追いかけているようでいて、それでも誰よりも自由を愛しているような男だ。悠里もそう言うだろうと思ってはいた。
「それに女の友情とあないな形で天秤にかけられるのは好かん。付き合うたとしても上手くいくとは思えんしな」
「…それが姫条くんの結論なんだね」
 午後の柔らかな風が二人の間を吹き抜けてゆく。悠里はそれにさえちぎれそうなほどの声で言った。
「男の人って、やっぱり一人の女の人に束縛されるのって嫌なものかな」
「どうやろな。でも惚れた女は例外や。ずっとそばにおらんと不安になるし、自分のことだけ見とって欲しいって我が儘も言いたくなる」
「そんなもの?」
「そんなモンや。いっそのこと叫んでみたらどうや? 俺みたいにどこかで聞いているかもしれへんやろ?」
キョトンとした悠里の表情は、少し悲しげな笑顔に変わった。
「無理だよ」
「なんで?」
「だって眠っているんだもの」
 確かにあの男の日頃の様子ではそう思われても仕方ない…まどかがそう思った時に、悠里は大きく伸びてから立ち上がった。
「さーて、女の友情の修復に行って来るかなッ。少し大変そうだけど」
「俺の胸はいつでも悠里ちゃんの為に開けておくで。何かがあった時はいつでも言うてや」
「気持ちだけもらっておくーッ」
結局は冗談としか思われていないらしく、それじゃ…と言い残して彼女は去っていった。
「さて、俺もそろそろ行くか」
腕時計を見ながらまどかも立ち上がる。彼女の座っていた位置に偶然手が触れるとそれだけで胸が絞られるように苦しくなる。自分にとって唯一の救いは彼女自身も同じ『片想い』という呪縛を抱えていることだろうか。
 公園の中央にある大木を横切ってスタリオン石油まで足を進めようとしたとき、まどかは呟くように、しかし相手にはっきりと聞こえるように言った。
「知っていて黙っとるんやったらタチ悪いで、ジブン。俺かてこのまま諦めるつもりはあらへん。いつだってかっさらってく心づもりは出来とるで」
そして先ほどの悠里を真似るように身体を伸ばすと、勢い良く公園から駆けだして行った。
「冗談…」
木の上に登っていたいつもなら閉じられているはずのエメラルドの瞳は、この日に限って大きく開かれており、全ての会話をその耳に捕らえていた。
 
 
 
 
END
 
 
 
 
VSから始まってVSで終わるお話でした。ハッピーエンド主義のハズが、のっけから裏切ってしまって本当にごめんなさい。奈津実→まどか→悠里→?と、それぞれが片想いをしているような感じです。一番おいしいのは最後に出てくるお昼寝野郎であることは明白ですね。
王子はああいう設定の持ち主ですから誰とライバル状態になってもおかしくはないのですが、彼が本気で立ち向かうとしたらその唯一の存在がまどかくんだと思っています。彼は軽いフリをしていますが、実際冷静に判断出来て、人をよく見ており、実際にかっさらうことの出来る行動力の持ち主だからです。
更新日時:
2002/09/13
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Last updated: 2010/8/15