1ST LOVE

8      ガールフレンドU   ーKEIー
 
 
 
 
 
 この頃の女の子達は、自分たちのたまり場としてウィニングバーカー駅前店を利用するようになった。ここは仲間の一人である藤井奈津実がアルバイトしている事もあり、よほどのことがない限り希望の席にも座れるし、無理な注文にも応じてくれるという実にありがたい店なのだ。そして…今日のメインはどうやら水崎悠里であるらしく、彼女は五人の中の議長席にほぼ強制的に座らされている。
「どうしたの? みんなそんなに難しい顔をして」
「ユーリ…あんた今日こそ吐いてもらうわよ」
「何を?」
「あんた…葉月珪と付き合ってんでしょ?」
 話題をふったのは奈津実だったが、もちろん他の三人もそのことを知りたくてたまらない感じだ。なんで私が…と思っている志穂でさえ耳はダンボのようになっている。しかし肝心の本人といえば…。
「付き合ってないよ」
「「「「うそっ!!」」」」
バニラシェイクのストローをくるくると回しながらの発言に全員が立ち上がる。しかし周りの客の冷たい視線に我に返って座り直した。
「だってこのごろ一緒にいること多いじゃん」
「でもそれは友達だからだよ」
そのなんでもないような言い方が彼女らしくもあり、しかしその中に何かがあるように思えて仕方ない。
「この前の花火大会に行ったんでしょ? 二人して浴衣着て」
「うん。楽しかったよ」
 このあっけらかんとした言い方は本当に楽しかったのだろうし、本当にそれ以上のことはなかったんだろう。
(信じられなァーい、これなのに二人は恋人同士じゃないって言うの?)
(そこで何かの進展はないワケ? 夏よっ? 花火よっ? 浴衣なのよっ? これほど気持ちが高鳴るシチュなんて考えられないわよ!)
(そっ…そうよね。私としたことがちょっと嫌な想像をしてしまったわ。そんな感じでなくちゃ学年でトップなんて取れないわよね)
「いいなー、花火大会。合宿の準備があったから行けなかったの…綺麗だった?」
たった一人嬉しそうに言った珠美に、悠里はニコニコと頷く。
「よかったよー。海の上までドーンって広がって、本当に大輪の花みたいで…」
「ユーリ!」
二人の会話を奈津実が遮った。
「あんたはそれでいいワケ? 手ェ握ったとか、キスしたとか、その先までいっても良いとか、そういう気持ちないのッ?」
 バニラシェイクをもてあそぶ指先が止まった。それまで明るい表情を隠さなかった悠里が少し俯きがちになる。
「思ってるよ…私はね」
女の子達の心の中がシン…と静まる。付き合っていない=友達というよりも、片想いだと思っているのだろう。しかし、だとしたら問題は男である葉月珪にあるのではないのか?
「ちょっと待ってよ! 確かにミズキよりは劣るかもしれないけれど、ユーリだってそれなりに可愛いじゃない。一体何のモンクがあるワケ?」
「仕方ないよ…だって葉月くん好きな子がいるんだもの」
突然…というよりも、思いがけない一言にみんなの身体が飛び上がる。
「「「「ええーーーっっ???」」」」
 そりゃあ相手は人気モデルなのだから、寄ってくる女は鬼のようにいるだろう。しかし校内でのあの孤独っぷりから好きな子がいるとは思えないのだ。
「それ、本人が言っていたの?」
「…この前『どういう子が好きなの?』って聞いてみたの。そしたらね、おせっかいで、おっちょこちょいで、やけにプラス思考で…でもその人といるととても安心するんだって」
「「「「……」」」」
四人は議長席の少女をマジマジと見つめる。
「おせっかい…って言ったの?」
珠美の言葉に悠里は頷く。
「おっちょこちょいって…」
瑞希の言葉にもやはり頷いた。
「やけにプラス思考とも言われたわけよね?」
志穂にもまた頷いて見せた。
「どーせ鈍いとかなんとか付け加えられてんのよ」
「なっち、よく知ってるね…」
「あんた以外にどこにそんな人間がいるってのよーッ!!」
 
 
 
 
 結局、切ないのかそれともただ単に惚気ているだけなのかという語り合いはそのまま幕を閉じることになった。でも悠里以外の四人がこの会合の開催を悔いる事はなかったのだという。『あの葉月珪も、それなりに苦労している…』のだと分かっただけで、収穫は充分だった。
 
 
 
 
END
 
 
 
 
バカップルと愉快な友人達第2弾でした。タイトルこそは同じですが、前作とは関係のない独立したお話となっています。ガールズサイドの女の子達はみんな可愛いので大好きなんすよ。だからネタさえ落ちてきたらまた書くかもしれません。珪×ヒロインの場合は、友達になって突っつく方が絶対楽しいに違いない。
余談ですが、うちの王子は悠里に関して苦労なんかしていません。あのにぶっちい部分も込みで「可愛いなあ」と思っているのです。
 
 
更新日時:
2002/09/06
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Last updated: 2010/8/15