1ST LOVE

29      君は僕の宝物   ーCHIHARUー
 
 
 
 
 
 期末の試験を終えると、学生の頭の中はこれから訪れる夏休みのことで一杯になるらしい。あれだけ賑やかだった図書室も今はほとんど人が見あたらなかった。そんな中、青い髪の青年と赤茶色の髪の女性が向かい合ってノートや本を広げながら話をしている。その内容は…どうやら英会話のレッスンであるらしい。なめらかな英語で教えているのは青年の方で、それでも相手の方もたどたどしく返している。
「随分と上達していますよ。もうアメリカに行っても充分通用するくらいに」
「でもいざ外人の前に出たら震えてしまいそう…千晴くん、助けてね?」
「ユーリなら大丈夫! すぐみんなに心を開いて、あっと言う間に人気者になれますよ」
 そう言ってはみたものの、千晴の内心は複雑である。常に人を引きつける恋人の存在は嬉しいとは思うが、どうもその他の人間に嫉妬してしまうらしい。純粋な性格の彼はそんな自分を決して好いてはいなかったけれど。
「千晴くん?」
「え…? ああハイッ。なんですか?」
「あのね、もし一人で買い物に出かけた時にはね…」
「ああ、その時は…」
再びレッスンに没頭し始めた二人は、自分らの側に誰かがやってくることに気がつけずにいた。そして…。
「図書室は勉強するところではないのよ」
「はいっ、すみません先輩っ」
反射的に頭を抱える悠里を見て千晴はクスクスと笑う。正面に座っている彼には当然声の主もわかっていた。
「ユーリ、後を見て」
「え…?」
 おそるおそる振り返ると、そこには同じく一流大学に進学したかつてのクラスメートたちが立っていた。もちろんおかしそうに笑いながら。
「守村くん? …志穂ちゃあーん…」
「あなたってばあの頃と少しも変わっていないのね。初めて会ったときのこと覚えてる?」
「覚えているよぉー。なんて怖い先輩だろって思ったもんっ」
「言ってくれるわね。私もまさかこんなに長い付き合いになるとは思ってなかったわ」
 あの頃は受験勉強のことでガチガチだったような志穂も随分と変わったような気がする。開放的で裏表のない悠里の影響も大きいのだろうが、悠里自身は今も彼女の隣にいる守村桜弥の存在も大きいのではとにらんでいる。まだ恋人という関係ではないようだが、勉強家で植物を愛する部分が共通しているのか、二人が一緒にいるところをよく見かける。
「蒼樹くんが教えてあげているの?」
「ええ、ユーリも英会話に興味があるみたいで。彼女には沢山の日本語を教えてもらっていますから、やっと恩返しが出来ます」
「千晴くんてば、大げさすぎるよ…」
「少しも大げさじゃないよ? そしてやっぱり嬉しい。僕の国の言葉を覚えてみたいというユーリの気持ちがね」
 会話にひとくぎりついたところで志穂が別な話題を切り出した。
「この前藤井さんから電話があったわよ。本当はあなたとも連絡をとりたがっていたけれど、通じないらしいわ」
理由はわかっているけれどね…とため息までつかれて、悠里の顔が赤くなる。ようするにそれだけ彼女は千晴と行動を共にしているということなのだ。
「夏休みに久しぶりに会ってみんなで旅行でもいかないかって言っていたわよ」
それまで微笑みながら見守っていた千晴の表情が変わる。彼は自分の気持ちをすぐに顔に出してしまうところがあった。そして自分に注がれる不安げな視線の意味を悠里はわかっていた。
「ごめん、今年の夏は予定があるんだ」
「予定?」
「うん、今年はアメリカに行ってホームスティをしてこようって」
 そうだよね、と言われて初めて千晴に笑顔が戻った。
「もしかしてホームスティって、蒼樹くんのところ…?」
「はいっ。ユーリは僕の大切な人ですし、恩人ですから。日本で僕を助けてくれた女の子に、家族みんなが会いたがっているんです」
千晴が楽しそうに、そして嬉しそうに語るたび、純情な二人は顔を見合わせたまま何も言えなくなってしまう。
「じ…じゃあ、そう伝えればいいのね…?」
「私の方から連絡を入れるよ。ごめんね志穂ちゃん」
「わかった…」
いろんな想像をしすぎてフラフラになって出てゆく二人を、悠里と千晴は不思議そうに見送った。
 
 
 
 
 
 帰り道、千晴は並んで歩く恋人に向かってこう尋ねた。
「ユーリがアメリカに行くと言ったとき、守村くんも有沢さんもびっくりしていましたね」
「それは千晴くんが私を家族に会わせるからなんだと思うよ。日本では大抵結婚する相手を連れて行くって意味があるから」
「そっ、そうだったんですか?」
千晴の顔が真っ赤に染まる。それを見て悠里はフフッと笑った。
「もしかしたら旅行組に話のネタにされるかも…でも気にしないで。アメリカはアメリカだもの」
「いいえ! 本気にします! だって僕は…」
「えっ?」
「だって僕は…」
 
 
 
 
END
 
 
 
 
蒼樹千晴くんエンディングのその後です。一流大学にそろって入学し、夏休みにはアメリカに連れて行く…という私がプレイしたラストを再現してみました。本当は誕生日記念の創作にしたかったんだけど…今日って何日だよぉぉぉーーー。ごめんね、千晴くん…。でも用もないのに雑貨屋だのブティックだのに出かけてぶつかりまくった懐かしい日々がよみがえってしまいました。彼は比較的初期のうちに攻略したキャラでしたが、ネットがなければそれも不可能だったような感じでしたね。きちんとしたイベントの数が少なかったのが残念…クリスマスもしたかったよー、演劇もしたかったよー、一緒に京都も回りたかったよー。そのせいか、うちの悠里とのその後は彼氏見せびらかし大会となるのでありました。お幸せに♪
 
更新日時:
2003/08/30
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Last updated: 2010/8/15