1ST LOVE

26      バンザイ〜好きでよかった〜   ーMADOKAー
 
 
 
 
 
 夕暮れの色に染まる坂道を、その日二人は並んで歩いていた。片手にはそれぞれの卒業証書を、そしてもう片方の手で相手の手をしっかりと握りしめている。しかしその様子はどこかぎこちなく、相手の心を探っているような…幸せなのに決してそれに慣れていない切なさに溢れていた。
「あ…あのね…」
急に立ち止まったのはセーラー服の似合う女の子の方だった。
「なんや?」
「姫条くんは知ってる? さっきの教会にね…いろんな言い伝えがあること」
 悠里の言葉も一緒に赤面しているように聞こえるのは、その教会で彼から想いを打ち明けられたからだ。
「おおー、そういやいろーんな噂あったなあ。地下シェルターとか宇宙人にさらわれるとか…。そういえば山のようなアンティークグッズがあるとかいう話もあったわ。あーもう少ししっかり見てくればよかったなぁ。もしかしたら一つくらいいただいてもわからんかったんやないか?」
「違うの!」
まどかの声をさえぎるために出した声が、思いの外大きくなってしまった。
「…悠里?」
 ポロポロと涙が零れてくる。違うのだ…決して彼を責めたいわけではない。
「あの教会って…運命の王子様と巡り会えるって伝説があるの。そのことをずっと夢の中で見ていたんだ。愛する王子様を待っているお姫様のステンドグラスがあって…だから私、教会の扉が開いた時に、この人が私の運命の人なんだって思ったの。それが本当に嬉しくて、嬉しくて…」
感謝の気持ちをほんの少しでも伝えたかった。生まれて初めての恋人と呼べる人だから。そしてそんないじらしさも手伝ってか、その想いは何倍にも膨らんで彼の心に伝わる。
「…サンキュ」
 言葉と同時に、繋いでいた手を自分の方へと引き寄せた。
「姫条く…?」
それは彼の腕の中に自分から飛び込んだ形になった。そして大きな胸にしっかりと抱きしめられる。
「めっちゃ嬉しいで、こんな俺のことそないに思うてくれるの。でもな、俺もすごく大切にしたいことあるんやで。だって2人が出会う確率ってめちゃ低いやろ? もし俺が大阪からここに来ぃへんかったら…そして悠里が東京から引っ越して来ぃへんかったら…俺ら今でも知らんもん同士や」
本当に小さな確率の中で芽生えた大切な恋だ。どんなことがあっても守ってゆきたい。
「俺のことを運命の王子様みたいに思ってくれるの、めちゃめちゅ嬉しい…あの教会もな、ずーっと大切にしてゆきたいんやで? でも忘れんといて。俺らは出会ったことでこうなったんやから」
「うんっ」
 ここでまどかはようやく悠里の笑顔を手に入れることが出来たのだった。
「ホンマ俺のお姫さんは忙しいやっちゃな。急にマジになったかと思えば泣き出すし、今度はめちゃくちゃ可愛く笑いよるし…油断していたらどっか行きそうで怖いわ。しばらくはこうして抱きしめとかんとな」
次の瞬間抱きしめた力がゆるんで、悠里は腕の中から少しだけ解放された。
「…行くか」
「うんっ」
 先程までぎこちなかった2人の手が、今度はしっかりと腕を組み合って歩いてゆく。バーミリオンの光の中で寄り添う影が長く伸びた。
「ねえ、どこに遊びに行く?」
「そやなあ…さっきの熱っーい抱擁の続きをしに姫条ハウスまで走ろうか、な?」
「…ええええーーーっっっ???}
「教会で愛を誓い合った2人の行く先は新居、その後は初夜って決まっとるやろ。行こ行こ」
 
 
 
 
END
 
 
 
 
時期を思いっきり外した卒業記念創作です。エンディングがとても素朴で優しかったニィやんとの帰り道でした。ちょっとちゃかしているようで、激しくロマンチリクルなこの人にはウルフルズのラブソングがよく似合う…。毎回インチキ関西弁で申し訳ありませんデス。
 
更新日時:
2003/04/07
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Last updated: 2010/8/15