1ST LOVE

24      traveling   ーKAZUMAー
 
 
 
 
 
 放課後の男子バスケ部の部室にて、いつもは穏やかな少女が珍しくひどく不機嫌な顔をしていた。しかもたった一人にだけそれを向けている。
「一体何だってんだよ…」
まったくわかっていない鈴鹿和馬の態度が相当シャクにさわったのか、紺野珠美はムッとしたままこう言った。
「…今日も悠里ちゃん鈴鹿くんのことを見ていたね」
和馬の動きがピタッと止まり、その声は一気に裏返る。
「なっ!! 何でッ水崎がッ。オッ俺は別にあいつに気があるとかそんなこと言ってねーぞッッ」
 一人でまくしたてる和馬を前にして、部員たちは心の中で同じ言葉を呟いた。
(鈴鹿…お前分かり易すぎ)
しかし珠美の言葉は火に冷水をぶっかけるの如く、遠慮を知らない。
「そんなことはどうだっていいの。問題は悠里ちゃんが鈴鹿くんを見ていたってことなんだから」
「てめぇ…」
「だって信じられないんだもん! あの優しくて可愛くて頼りになる悠里ちゃんが、がさつで単純で脳みそまで筋肉で出来ていそうな鈴鹿くんにーっ」
ここでも他の部員たちは大いに頷くのであった。
 水崎悠里という名前の少女は女子のバスケットボール部員で、和馬と同様に一年でレギュラーの座をもぎ取ったエースでもある。珠美の言うとおりの可愛くて優しい性格の持ち主で、はばたき学園男子生徒を対象にした『お嫁さんにしたい女子生徒ランキング』の堂々一位に輝いた…らしい。男子バスケ部マネージャーの紺野珠美も上位にいるらしいが、いかんせん気の弱さが災いしているのか、だから余計に悠里のようなタイプに憧れているらしいのだ。しかもそれは彼女だけではなく、女子バスケ部の試合の時は体育館が女子生徒で溢れるのだからその人気もハンパではない。
「悪かったな、バスケバカで!」
「本当にそうよ!」
 気にしていることを次々と言われ、流石の和馬も深く落ち込んでしまった。
「と・に・か・く、私は絶対に認めないから! 悠里ちゃんにはずーっと独身でいてもらって、来世で男になった私と結婚してもらうの」
「なんだそりゃーっ」
そこで和馬はハッと我に返る。何か心当たりがあったからだ。
「紺野…テメェこのごろ俺のドリンクにマ○レモンの味がすると思ってたが…もしかしなくても知っててやってやがんな!?」
「さーて、コーチにスコアブック持って行かなくちゃ。そして悠里ちゃんと一緒に帰ろうっと」
お先に失礼しまーす、と言い残して彼女は去っていった。
 なーんか女子校みたいなノリだな…と部長が振り返ると、和馬は部屋の隅っこでうずくまりながら暗くなっていた。
「いいじゃないか。相手もお前のことを見ているんだろう?」
「…そうだけどよ…」
「珠美に勝てると思うなよ。悔しかったら来世まで待たずにかっさらってやれよ」
「どこへだよ! あいつ絶対追いかけて来るぞ…」
「…アメリカへだよ」
 
 
 
 
END
 
 
 
 
『Mirror』で和馬の、『止まらぬ想い』で悠里の話を書いたので、今回は珠美ちゃんがメインのお話でした。彼女にとってのライバルは悠里ではなく、和馬の方だったのです。女同士がライバルになると、どうしてもどちらかが当て馬的存在になっちゃうし、普段は彼女もとても良い子なのでなるべくきつい展開は控えたいのが本音なのですが…でも珠美ちゃん、真冬の練習試合にアイスレモネードを差し入れてくれた恨みは一生忘れないと思います。(プレイ時に風邪をひいていたので、本気でブルブルきました。)
 
 
 
 
更新日時:
2003/02/23
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Last updated: 2010/8/15