1ST LOVE

23      Lucky Girl   ーKEIー

 
 
 
 
 
 夢の中のプリンセスが、和装の姫君に変わった一瞬…
 
 
 
 
 2005年、元旦。珪がこの日に水崎家のチャイムを押すのは3年連続で3回目の事で、もはや家族も認めた恒例行事と化していた。そして彼が訪ねてくる同級生の長女が待ちかねたように廊下をパタパタ走るのも毎年の事だ。
「はいっ」
確認するのはインターホンで話した方がずっと速いのだが、やはり本人を見ないと落ち着かないらしくこうして飛び出してくるのだった。
「悠里?」
「やっぱり珪くんだったね。毎年いつも時間厳守でなによりですっ」
おどけたように敬礼をすると黄色い細いリボンが揺れる。そして相手に口を挟む余裕を与えぬまま、今度は深々と頭を下げた。
「明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします」
「ああ…おめでとう」
 こちらこそよろしく…と言おうとして口が止まった。原因は悠里の今日の服装にある。彼女は深い紫色の美しい振り袖を着ていたのだ。
「お前、着物…」
彼女との出会いで始まった高校生活の中で以前よりは周りとも自然に話せるようになったとは思うが、今回のこれは完全な不意打ちであった。思うように誉め言葉が出てこないのである。
「うん! クリスマスのバーゲンでようやく買えた花椿ブランドの新作なんだよ。おかげで懐は寒いけどね」
あの頃と変わらぬ笑顔でペロッと舌を出す。
「どう? 似合うかな…」
「いいな。今日は得した」
「本当?」
その一言がよほど嬉しいのか、何度もその場で気取ったポーズをして見せた。
「馬子にも衣装だって言われるかと思ってた」
「期待してたのか?」
「んもーっ、やっぱり誉めてないっ。これでも気持ちは大和撫子のつもりなんだからね」
 
 
 
 
 やはりこの日に神社に訪れる人間の数は圧倒的に多い。慣れない草履で歩く悠里に歩幅を合わせ、決してはぐれないように小さな白い手をしっかりと握りしめた。さりげなさを装ったものの、繋がった手から心臓音が伝わりそうで2人は自然と無口になった。
「なあ…」
どれだけ不自然な空白が続いたのだろう。視線は前へ向けたまま、珪はようやく口を開いた。
「なっ、なあに?」
「お前、なにを祈るんだ?」
悠里は一瞬不思議そうに彼を見つめたが、すぐにクスクスと笑い出した。
「やっぱり絶対合格! でしょ? 私たち今年受験生だよ…忘れてた?」
「そういえば、そうだったな」
「んもーっ! 緊張感ないなあ」
 珪のそういう性格も悠里は問答無用に愛していたが、彼の場合は本気なのか冗談なのか未だ計れぬ部分を持っている。
「でも試験最中に眠る俺に比べたら、お前が焦る必要はないと思う…氷室学級のエースなんだからな」
「まさか、受験当日に眠るつもりとか…」
「自信は、ないな」
ちゃかしたような言い方だったが、口元の笑みが揺るぎのない自信を感じさせてくれている。悠里はそっと胸をなで下ろした。
「でもやっぱり珪くんと同じ大学に行きたいな。折角三年間も一緒にいられたんだもの、これからも同じ時間を過ごしたい」
聞きようによっては愛の告白とも受け取れる発言だった。無自覚のラブラブぶりに周囲の人々も『いい加減にしろよーっ』的な視線を投げかけていた。
「馬鹿」
「ううっ、どーせ私は…」
そう言いかけた悠里の肩を珪はそっと抱き寄せていた。
「なら当日は余計に寝るわけにはいかないな。たまには気を張っておきることにする…」
彼女の耳にしか入らなかった特別甘いささやきは、姫君の可愛らしい顔をおめでたい真っ赤な色に染めさせたのであった。
 
 
 
 
 
 お参りが終わった後、2人は互いの願をより確固たるものにすべく絵馬に書いて奉納することにした。しかしお互いに見せなかったその心からの願いを知った学問の神はさぞかし頭をひねるだろうということを追記しておく。
 
『珪くんが受験当日に眠りませんように! あと…いつかこの気持ちに気付いてもらえますように』
『いい加減、気が付け』
 
 
 
 
END
 
 
 
 
平成15年の年明けに、『一緒の気持ち』サイトオーナーちーくわ様から素敵な年賀状を頂きました。すっかり遅くなりましたが、今回我が家でもアップさせて頂けることになりまして、お礼と言ってはなんですがおまけにイメージ創作なんかも書いてみたりしちゃったりしちゃったりして(謎)。
でもでもでもっ、新年からラブラブモードな王子×主人公ちゃんが本当に素敵です。見て下さいな…彼のすっかり安らいだ優しい表情を。幸せな恋人たちを描けば右に出る者なしのちーくわ様ワールドに完敗ですわー。本当にありがとうございました。
それにしてもお話の中の王子…主人公のツッコミが無かったら本当に受験の日に寝そうで怖いよう。
 
更新日時:
2003/02/09
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Last updated: 2010/8/15