ANGELIQUE TROIS

6      初恋
 
 
 
 
 
理想郷と呼ばれる世界に
やっぱりあの人がいた
 
試験や戦いの中で混乱してしまった 私たちの時間
それでも間違いなくあの人は成長していて
別に傷ついたわけでもないのに
…胸がイタイ
 
まぶしい光に銀色の髪が反射して
深紅を宿した瞳が細くなる
そんな何気ない仕草にも
心が細やかに反応してしまう
 
入り口で立ったままの私
一体どんなまぬけな顔をしてた?
そして我に返るのは
やっぱりあの人の方が早くて
 
「どうした?」
「いえっ…あの…ごめんなさい」
なかなか言葉の出てこない私に向かって
フッと笑いかけてきた
「オメーって、変わってねーのな」
「…そうですか?」
「初めてオレの執務室に来たときと同じ顔してんぞ」
 
その笑顔につられるように やっと言葉が出てきた
「ゼフェル様は随分と変わられた気がします」
「そっか?」
「初めての頃なら きっと怒鳴られていましたよね」
 
その頃を思い出して苦笑している
突然聖地へと来るように命じられたあの時
この人は私の後ろに かつての自分を見ていた
 
「もう言わねーよ」
「えっ?」
「オメーはオメーのままでいて欲しいからな」
 
そうだろ? と言うように振り向かれて
その眩しさに目を伏せる
でも口には微笑みが浮かんでいた
溢れてくる涙を抑えるための…
 
「育成をお願いに参りました」
 
 
 
 
END
更新日時:
2002/08/28
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Last updated: 2010/5/12