ANGELIQUE TROIS

5      Happy Birthday   〈S〉
 
 
 
 
 
 早朝、向こうの宇宙から僕宛に大きな花束が届いた。まあ正確に言えば彼女宛…何だけど。
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「フフッ、かまわないよ。好きなことだからね」
モニターの向こうで金色の髪の少年が笑っていた。彼が僕の依頼した花束を用意してくれたのだ。しかしだからこそ言いたいこともあるわけで…。
「…赤い薔薇を加えて下さってもよかったのですが」
「そう?」
 まただ…この瞬間、僕の心は焦りと不安で一杯になる。二人の間にある心の距離が一気に広がったような気がするのだ。僕と彼ではなく、僕と彼女の距離が。向こうの九人がそのことに気がつかない限り、僕ら九人との間に生じた溝は永遠に埋まることはないだろう。
「でもそれは必要ないはずだよ」
「どうしてです?」
「それはショナ自身がアンジェに聞かなくちゃ!」
まるではしゃぐ子供のような声に、僕はどんな表情を向けたのだろう。少し固い声で別れを告げ、そのまま花束入りの箱を抱えて通信ルームを出た。
(情けない。あっさりと受け流すことも出来たのに)
広い廊下を歩きながら、それでも僕の足は向かう場所を一つしか知らなかった。
 
 
 
 
 コンコン…という小さなノック音に合わせて、アンジェリークは自室の扉を開けた。
「はい?」
しかし一番最初に目に飛び込んできたのは、まるで純白をそのまま束ねたかのような美しいかすみ草のブーケだった。
「素敵…」
その向こうに僕の姿を見つけたアンジェの顔が赤くなる。
「ショナ…」
「どうやら僕が一番最初みたいだね。今日が何の日か覚えている?」
花束を抱きしめて、そっと呟くように言った。
「HAPPY BIRTHDAY! 十八才の君に」
 花瓶に花を生けて、それから彼のためにコーヒーを入れる用意をした。
「本当はね、赤い薔薇も付けて欲しかったんだ。でもマルセル様が…」
そこまで言い切って口を押さえた。本当に自分らしくない。まるで八つ当たりのように人の名前を言ってしまうなんて。
「マルセル様がなんておっしゃっていたの?」
「薔薇は必要ないんだって」
アンジェはコーヒーメーカーをセットする手を止めて少し考えると、楽しそうにフフッと笑った。
「何か知っているの?」
 僕の問いかけに対する返事のつもりなのか、アンジェは僕のところに近づいてきて、慌てて立ち上がった僕の頬に触れた。
「私の薔薇はここにあるの」
スッと動いた指の行く先は僕の目だった。「だから他の薔薇はいらないのよ」
僕の両腕は気がついた時この宇宙を導く立場の女性を強く抱きしめていた。
「ショ…」
「大好きだよ、僕の天使。君を誰よりも愛している」
十八才の彼女への初めてのキスは、まるでコーヒーのようにほろ苦く、そしてまろやかで優しい味がした。
 
 
 
 
END
 
 
 
 
転生したショナくんのお話は全てトロワコーナーに置いています。この話は珍しくほのぼのというか…ごく普通のラブラブカップルの内容になっています。ショナは設定がハードなので難しいと思いきや、意外とやきもち焼きな性格も出て書いている側はとても楽しかったです。(これも本体さんの影響か?)
 
 
 
更新日時:
2002/10/06
前のページ 目次 次のページ

戻る


Last updated: 2010/5/12