LOVERS

80      この腕はひとりだけのために   (幸村精市)
 
 
 
 
 
 冬の午後は日が暮れるのが早い
 ちよっとした報告をしたり 授業のノートを手渡しただけで すぐに暗くなってくる
 「…もう 帰らなくちゃ」
 彼の言い出しにくいことは なるべく先に言うようにしている
 「もうこんな時間なんだ」
 「また明日来るね」
 「うん…」
 
 
 
 
 あと数日の入院と その後の投薬
 状況によっては手術の必要があるのだと聞いた
 正体不明の病魔 彼はたった一人でそれと戦っている
 「ねえ 新菜」
 「なに?」
 「この体が動かなくなったとき それでも君は俺を抱いてくれるか」
 それは初めて口にした 甘えにも似た言葉
 「…もちろんよ」
 
 
 
 
 この体も 心も 未来も
 私の中にある全ては 永遠にあなただけのもの
 
 
 
 
 
更新日時:
2005/01/22
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Last updated: 2010/5/14