「謙也くんっ！」

　全国大会に向けて東京へと旅立つ駅のホーム

　そこへとゼエゼエ息を乱しながら走ってきたのは…

　「新菜！？」

　「ごめんね　これを作ったから…どうしても持っていって欲しかったの」

　「なんや　そのためにわざわざ来てくれたんか？」

　「私って何も出来ないんだけれど　頑張ってきてね」

 

 

 

 

　新幹線の中で　そっと手のひらを開いてみる

　彼女がくれたのはフェルトで作られた手製のお守り袋

　それは縫い目もガタガタで　お世辞にも上手とは言えなくて

　きっと何度も針で指を刺したに違いない

　でもこれでいいんだ…俺には本当にこれだけで

　真ん中に刺繍してある『ケンヤ　ガンバレ』

　その一言が　俺をいつでも奮い立たせてくれるのだから

 

 

 

 

　これはユニフォームの胸ポケットに入れておこう

　彼女の想いをしっかりと抱いて　コートの上に立つ

　離れていても　心だけはいつも一緒でいられるように

 

 

 

 

　「ホンマ　早よぉ着かんやろか　東京」

　「そやね　早く優勝して　彼女のところに帰らなあかんね」

　「いや　新菜の可愛らしさをあのアホ従兄弟に語らねば！　２４時間ライブで！」

　（侑士逃げてーっ！　今すぐ逃げてーっ！！）