「最近、裕太が帰ってこないね」
「彼女が出来た弟なんてそんなもんよ」
「は?」
「新菜ちゃんが作ってくれるさつまいもカレーの方が美味しいんだって」
「……」
「よりによって、可愛くない方の弟が残っちゃうなんてねー」
「悪かったね」
「はっくしゅんっっ…痛っ!!」
「不二くん?」
くしゃみのついでに手を滑らせてしまい、皮むきで指先を切ってしまったらしい
手にしていた人参も床に落ちてくるくる回っている
となりのコンロで玉葱を炒めていた手を止め、慌てて駆け寄る
そして血が滴っている指先をその場で…ぱくっ
「にっ、新菜ちゃん!?」
彼女の口で血を吸われる感覚は、痛さよりも熱さの方が遥かに上で
「大丈夫? 絆創膏持ってくるね」
「うん…」
炊事場を飛び出してゆく背中とぱっくり開いた傷口を交互に見つめながら
真っ赤になる顔と激しい動悸を止められぬ裕太であった
ああ…ありがとう、さつまいもカレー
ますます実家に帰らぬ確率が上昇した そんな寮生活の午後
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