今ではとても考えられないことだけれど
一時期 私は彼のことをひどく疑っていた
その気になれば何でも出来るあの人が?
どこにでもいるような平凡な私に?
どうして…どうして…どうして…
だから私は彼の詐欺に引っかかることにした
その全てが彼の仕掛けた罠だって思うことにして
そうしたら決して傷つくことがないから
「しんどいのう…」
「何が?」
「愛されないことより 信じてもらえないことが」
私の浅い感情なんて きっととっくの昔に気付いていて
それなのに今まで何も言えずにいたのだと知った
彼のその目が本当に悲しげに歪んでいたから
もちろん今はそんなこと思いもしないけれど
「新菜」
「なあに?」
「愛しとぉよ…」
「私も」
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