LOVERS

17      待ち合わせ   (海堂薫)
 
 
 
 
 
 その人は愛用の手帳を取りだして 突然こんなことを言いだした
 「駅前に新しいアイスクリームショップが出来たそうだな」
 「……」
 「全ての材料に自然素材を使ったという 前評判もなかなかな店らしい」
 「なんでそれを俺に言うんスか」
 「別に 好きそうだと思ったから」
 眼鏡を上に持ち上げて 彼はそのまま手帳を鞄にしまう
 「……」
 「それじゃまた明日」
 結局何も言えぬまま 去ってゆく大きな背中を見送るしかなかった
 
 
 
 
 自然素材を使っているといううたい文句のわりには
 生クリームだのチョコレートだのが色々とトッピングされている『それ』を
 本当に嬉しそうな顔をして口に運んでいる
 「…美味いか?」
 「うん。ピーチといちごとチェリーがまぜこぜになっていてね 甘酸っぱくて美味しいの」
 「そうか…」
 カップの中が空になると 手を合わせてにっこりと笑った
 「連れてきてくれてありがとう 海堂くん」
 「…別に」
 
 
 
 
 ー先輩 その前評判は正しかったみたいっスねー
 
 
 
 
 
更新日時:
2004/12/02
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Last updated: 2010/5/14