その人は愛用の手帳を取りだして 突然こんなことを言いだした
「駅前に新しいアイスクリームショップが出来たそうだな」
「……」
「全ての材料に自然素材を使ったという 前評判もなかなかな店らしい」
「なんでそれを俺に言うんスか」
「別に 好きそうだと思ったから」
眼鏡を上に持ち上げて 彼はそのまま手帳を鞄にしまう
「……」
「それじゃまた明日」
結局何も言えぬまま 去ってゆく大きな背中を見送るしかなかった
自然素材を使っているといううたい文句のわりには
生クリームだのチョコレートだのが色々とトッピングされている『それ』を
本当に嬉しそうな顔をして口に運んでいる
「…美味いか?」
「うん。ピーチといちごとチェリーがまぜこぜになっていてね 甘酸っぱくて美味しいの」
「そうか…」
カップの中が空になると 手を合わせてにっこりと笑った
「連れてきてくれてありがとう 海堂くん」
「…別に」
ー先輩 その前評判は正しかったみたいっスねー
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