365 TITLE

        
17      兄弟   (木更津亮・淳   幼なじみ設定)
 
 
 
 
 
 付き合いは15年よりもずっと長くて
 それは母親の体内に息づいていた時から
 そこで俺達は二人で相談して、一つのモノを二つに分けた
 髪も顔も頭の中も全て同じで違うモノ
 それが一卵性双生児という存在
 だから俺達はお互いのことを誰よりも知っていて、誰よりも深く理解出来る
 もしかしたら好きになる女の子も一緒かもしれないね
 
 
 でも好きな人のことで俺達が喧嘩をしないように
 神様は同じような運命をきちんと用意してくれていた
 俺達のように同じ顔をした二人の女の子
 いつもの公園で、一緒に手をつないで遊んだ
 俺達の大好きな『にいな』と『りお』
 長い髪をポニーテールにして 赤と黄色のリボンを結んでいる
 その色が二人を見分ける唯一の方法だったけれど
 そんなこと俺達には関係なかった
 俺が好きなのが『にいな』で、俺が好きなのが『りお』
 これは宇宙的な規模での絶対的な決まり事
 
 
 でも二人は俺達にとってだけではなくて
 みんなにとっても可愛いと思えるほどの女の子で
 だから素直になれない連中に虐められることがあった
 わざと髪をつかんで引っ張って泣かせたり
 (本当はサラサラの髪に触れたいって思っているくせにね)
 泣いた二人を持て余してそのまま逃げる奴だっていた
 それを見ていると胸の中がカーッと熱くなって
 気がついたらそいつらに殴りかかっていた
 「にいなに何すんだよっ」「りおをいじめるなっ」
 悪いことだってわかっていても 泣いている二人を見ていたら
 俺達にはそれしか出来ない気がしたんだ
 でも二人が泣きやむのは俺達の腕の中じゃなかった
 優しくて 頭が良くて かっこいいサエ
 あいつに頭を撫でてもらって初めて二人は笑うんだ
 それを見ているとなんかじんわりと嫌な気持ちが広がって行く
 別に二人に誉めて欲しくてやったわけじゃないのに
 …でも もしかしたら大声で叫びたかったのかもしれないけれど
 にいなを一番好きなのは俺なんだって
 りおを一番好きなのは俺なんだって
 
 
 「知らなかったの?」
 いつもの滑り台の上でサエがそう言って笑った
 「「何が?」」
 「にいなとりおはね、二人のことが好きなんだよ」
 「「うそだっ」」
 「本当だよ でもお喋りするのが恥ずかしいんだって」
 俺のことはお兄ちゃんみたいだって思っているんだよ…
 サエは嬉しいらしく ニコニコと笑っている
 「だから俺言ったんだ 助けてくれたお礼は言わなくちゃ駄目だって」
 だからきっと明日は二人から話し掛けてくれる
 それは優しい友達の確かな予言
 「二人のことをもっともっと優しくしてやりなよ そしたらきっと良いことあるよ!」
 
 
 そしてサエの言ったことは本当になった
 ランドセルを背負って駆けていった校門の前で
 俺達を待っていた可愛い双子の女の子
 「ありがとう」と「大好き」を 真っ赤な顔をして小さな声で紡ぎながら
 その瞬間 俺達はずっと前から見えない場所で繋いでいた手を離して
 その手でそれぞれの好きな女の子を守るって決めた
 思えばそれが初めて『俺達』が『俺』になった瞬間だったんだ
 
 
 
 
 
 
 ー六角中 三年某組の教室ー
 
 
 
 
 チャイムが授業の終わりを知らせ、そのまま突入したホームルームも簡潔に終了した。一日の学校生活から解放された生徒たちは一斉に騒がしくなる。慌てて帰宅する者、委員会に向かう準備をする者、そして部活動の時間を確認する者…その後の動きも実に様々だ。そんな中、木更津亮の席に一人の少年がやってくる。
「よっ、おつかれ」
「聡か」
首藤聡…同じ男子テニス部に所属する親友の一人である。部活に向かう時も大抵どちらかが迎えにゆくようになっていた。
「今日なんだけどさ…」
そう亮が言いかけた時に、首藤は笑顔でそれを制した。
「もちろん来るよな?」
 全国屈指の実力を持つ男子テニス部と言えば聞こえは良いが、実際は気心の知れた…ある意味知りすぎている幼なじみの集団なのである。遊ぶ時はもちろん一緒だし、何かがあれば全員でお祭り騒ぎを始めてしまう。それが部員の誕生日なら尚更だ。あらゆる面目と遊びへの執着の前では引退の二文字など関係なかった。そして今日が彼…木更津亮の誕生日なのだった。
「寒くなってきたからさー、オジィの家で鍋パーティーやらないかって話出ているんだよ」
亮の心が一瞬だけ揺らいだ。これはこれでなかなか魅力的なお誘いである。
「なかなかいいね」
「だろ?」
 自信満々で返事を待つ首藤の背後に誰かがやってきた。
「りょーうちゃんっ」
明るくて可愛い女の子の声だ。振り返ると彼らがよく知る幼なじみの姿があった。
「新菜…」
「聡くんもいたんだ」
「おーおーどうせ俺はおまけでしょうよ」
亮がなんとなく返事を渋っている理由が首藤にはわかった。折角の誕生日を過ごす相手を選ぶなら、悪友よりは可愛い恋人になるのは当然で。
「なるほどね」
「悪いな」
「サエたちには適当に言っておくから心配すんなって。お二人さんは存分にいちゃいちゃしまくっていーからさっ」
 首藤は誘いを断られても、かえって晴れ晴れしたような顔で去っていく。事情をよく知らない新菜は心中複雑であった。もちろん大好きな亮に優先してもらえることは嬉しいが、テニス部の面々との友情だって大切なのはわかっていたから。
「気にしなくていいよ」
「でもテニス部のみんなも何か考えていたんじゃないのかな…」
時々彼女もパーティーに招かれたことがあったから、みんなが以前から計画を立てて楽しみにしていたことを知っていたのだった。
「私のせいで…」
「気にしなくて良いんだよ。鍋パーティーは中止になんてならないからさ」
「本当に?」
「中止にしたらダビデがグレるよ」
 
 
 
 
 ー聖ルドルフ学院中 男子寮の某室ー
 
 
 
 
 部屋の一角を埋め尽くすかのような贈り物の山に、同室の友人も苦い溜め息をついた。
「…凄いだーね。これが全部誕生日のプレゼントなんだーね?」
「そうみたいだね」
当然それを受けとらずを得なかった本人は酷く疲れたような顔をしていた。無理もない…男子テニス部の木更津淳くんと言えば、その実力だけではなく結構な美少年としても知られている。そんな彼の誕生日に女子生徒たちが黙っている筈がないわけで。同室の柳沢も女性にもてたい願望は人並みにあったのだが、これを見ていると現状維持が最も良い方法なのかもと思ってしまう。
「そんで? どうするんだーね」
「とりあえずは家に送るよ。もしかしたらあっちで使い勝手を考えてくれるかもしれないし」
 送料を考えるだけで頭が痛くなりそうだ。それでも彼女たちの気持ちを考えると受け取らざるをえなかった。それは彼自身が恋する気持ちを奥底で理解していたせいかもしれない。
「本当に欲しいのはそんなんじゃないんだけどな…」
「は?」
「…だったら何を欲しいと言うのです?」
突然降って湧いた自分たち以外の声に、慌ててドアへと振り返る。
「観月?」
「なんなんだーね。驚かせないでほしいだーね」
「失礼な」
同じテニス部で、おそらく誕生日にはこれ以上のプレゼントをもらっているであろう観月はじめの姿がそこにはあった。柔らかなくせっ毛を手で整えているのもいつもとかわらぬ姿だ。
「でもすぐに感謝することになりますよ、木更津?」
「何が」
「寮長から呼び出しがかかっていますよ。あなた宛てに大きな荷物が来ているそうです」
初めは観月の言葉をぼんやりと聞いていた淳だが、すぐに気がつくとそのまま部屋を飛び出して行った。
「なっ? なんなんだーね?」
「本当にあなたは鈍いですね。恋人からのプレゼントを待ちわびていたに決まっているじゃないですか」
 慌てて走ってきた淳を、いつもは厳しい寮長が優しく迎えてくれた。彼が預かってくれた荷物は確かに大きく、差出人の住所は自分の故郷に近い。そこには『日生梨緒』と綺麗な文字で贈り主の名が書かれていた。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げ、待ちきれないまま談話室で封を開ける。まず最初に出てきたのは彼の好きな色で編まれた手製のセーターだった。一緒にお揃いの手袋とマフラーが入っている。寮生活では風邪が流行し始めると、全員に被害が及ぶので困ると言ったことがあった。多分それで気を使ってくれたのだろう。箱の中で唯一赤く目立っているのが新しいはちまきだった。もちろん長さも愛用の物と同じ。以前に帰った時に必死になって長さを計っていた理由はここにあったらしい。
「梨緒…」
そして最後に大量の手作りクッキーが出てきた。おそらくは寮のみんなで分ける為にこれだけの量を焼いたのだろう。ナッツにチョコチップやドライフルーツが混ぜられている。まるでここの住人の個性を知り尽くしているかのように。いよいよ淳の心にたまらない何かが込み上げてきた。
 セーターに抱かれるようにして入っていた手紙を開く。そこには何よりも淳の健康を気遣う言葉が並んでいた。こちらはみんな元気だから心配しないでということと、寮のみんなにもよろしく伝えてほしいとも書かれている。しかし『逢いたい』『寂しい』という自分自身の我が儘は何一つ記されていなかった。彼女はいつだって人のことばかりを考えてしまう…そんな性格だったから。本当は胸の奥底に想いを隠しているのだと、淳は信じていたかった。
「電話…連絡入れなくちゃ」
部屋に戻って携帯を手にするよりも近くにあった公衆電話の方が早い。慌ててそれに飛びつくと指が覚えているボタンを押す。何度かのコールがこれほどうっとおしく感じたのは初めてだった。
「はい、日生です」
待ちこがれていた彼女の声だ。
「梨緒? 俺…」
「えっ、あっちゃん? えっ…どうして?」
「プレゼントが届いたんだ。今開けたとこ」
「よかったあ、間に合ったんだね」
「うん…」
 言いたいことが沢山あったはずなのに、本人の声を耳にしてしまうと何も出てこない。でもその震えにも似た気持ちは梨緒にも充分に伝わっていた。
「ありがとう。こんなに沢山…嬉しかった」
「本当はねーもっと沢山入れたい物があったの。でも新菜に散々削られてそうなっちゃった」
「でも無理しすぎていない? あんなに手の込んだセーターとかさ」
「平気だよ。あっちゃんのことをね、ずーっと考えていたらすぐに完成したもん」
これって思い出の沢山ある幼なじみの特権だよね、と言って笑った。
「なんか梨緒に逢いたくなってきたよ」
「あっちゃん?」
「本当は目の前でおめでとうって言って欲しかった」
もちろんこの学校を選んだのは自分の我が儘だ。彼女を残して来た者にこんなことを言える権利なんてないはずなのに。
「わかっているよ」
「梨緒…」
「私の気持ちはいつだってあっちゃんと一緒だもの」
 受話器に向かって何度も頷いている淳を柱の影から見守っていた二人が小声でささやきあう。
「こりゃ観月の言ったとおりだーね」
「んふっ、随分可愛いところがあるものです」
「…一体何をしているんですか、二人とも」
背後から話し掛けてきたのは偶然通りかかった同じテニス部の後輩だ。もちろん寮の住人の一人でもある。一足遅く学校から帰宅したらしい。
「裕太、いいところに来ただーね」
柳沢が淳の見える位置まで裕太を引っ張ってくる。
「なんですか?」
「恋人とのラブラブ会話なんだーね」
「んふっ、今日の寮での誕生会はどうやら楽しいことになりそうですね」
 
 
 
 
 
 一組は彼女の部屋で手作りのケーキに火を灯して
 一組は寮の電話ごしの優しい声で
 「「Happy Birthday!!」」
 「「また一年、どうぞよろしくね」」
 
 
 
 
 
END
 
 
 
 
二人分のお話だったので、いつもとはちよっと違う構成になりました。個人的に双子キャラが好きなもので、亮と淳の恋人もあえて双子ちゃんに。
 
 
 
 
イメージソング   『約束の季節』   ゴスペラーズ
更新日時:
2004/11/28
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Last updated: 2010/5/14