REBORN!

4      キズナ   (ディーノ&クローム髑髏)
 
 
 
 
 
 青白い肌と どこか虚ろな眼差し
 姿形こそ十年前とは変わらない…そう思いつつ
 まだ幼い彼女が『訪れる筈の未来』によって確実に追いつめられた事がわかる
 医務室の影からとはいえ その姿を見るのは酷く辛かった
 
 
 
 
 「随分と細い小さな子だったが 更に痩せちまった感じだな」
 「出来る以上の無茶をさせているわ…一時期は栄養失調だったというのに」
 
 
 
 
 毒サソリと称されるほどの女の悲痛な面もちを
 一生に一度どころか こうして当たり前のように見せられるとは…
 しかし決して嘘をつかない彼女のことだ
 そこから『この子』と『ボンゴレ』のより最悪な状況が見て取れるような気がした
 
 
 
 
 「少し話をさせてもらえるか?」
 「ちょっと あなたにそれを任せて大丈夫なの?」
 「随分な言われようだな…絶対に泣かせたりはしないさ」
 「………」
 「お願いだから信用して下さい ビアンキさん」
 
 
 
 
 息を潜めながら ゆっくりと医務室の中に足を踏み入れる
 すると彼女の自然と視線がゆっくりとこちら側に動いてくれた
 どうやら完全に意識を奪われてはいないことに心から安堵して
 それでも決して心を傷つけぬよう細心の注意を払いながら
 
 
 
 
 「…よっ」
 「あなたは…」
 「急に押し掛けて悪かったな 驚かせるつもりはなかったんだが どんな様子か見たくてね」
 「ヴァリアーとの時に…ボスと一緒にいた人…ね?」
 「覚えていてくれて嬉しいよ 小さなお嬢さん」
 
 
 
 
 近くにあった椅子をベッドまで引き寄せて そこに腰掛ける
 「それで 調子はどうだ?」
 「落ち着いてきてはいるの…まだリングと同調するのは難しいけれど」
 白くて細い指から霧の藍色の炎が揺らめいているのがわかる
 必死に生きようとするこの子の意識に触れ 指輪自身も懸命になっているような感じだ
 「でもそれが10日で間に合うかどうかは…」
 「あまり焦らない方がいい 君の意志で炎を高く燃え上がらせる事が出来れば自然と同調率も上がるさ」
 「そうか…な…」
 
 
 
 
 「でも私 こんな体で役に立てるのかな」
 「ん? どうした 急に」
 「どうしていいのか わからないの…すぐに倒れるし 迷惑ばかりかけて」
 眼帯を覆わぬ目から溢れた涙は やがて頬を伝ってシーツを湿らせてゆく
 この世界の運命から逃げるつもりはない
 本来の居場所に戻る為ならば命をかける覚悟もある
 しかしだからこそ 言うことを聞かせられぬ自分自身の体が憎く思えて仕方なかった
 「どうして私がここにいるんだろうって…骸様がいてくれた方がボスたちだってずっと…」
 
 
 
 
 それはきっと心の中にずっと貯めていた言葉だったのだろう
 彼女だけではなく 十代目や守護者と呼ばれた少年たちが必死にしまい込んだ本音
 そして彼らに頼らざるを得ない大人たちに叩きつけられた現実だ
 わけがわからぬまま闘いに巻き込まれた上
 その細い肩にいくつもの重い使命を背負わされてしまった
 しかもこれから対峙しなくてはならないのは すでに人間としての能力さえ越えた面子
 そんな連中に己の運命さえ完全に握られて
 …だけど
 
 
 
 
 「あまり悲しくなるようなことを言うもんじゃないぜ?」
 「でも!!」
 「確かに六道骸の持つ力は魅力はあるだろうさ 今のボンゴレは奴の力を求めざるを得ないほど追いつめられているんだ でもだからといって君を必要としない理由にはならないだろう」
 「私が…必要?」
 「ヴァリアーと闘ったのも 未来に一緒にやってきたのも君だろう? 共にくぐり抜けてきた者同士だからこその繋がりみたいなものが必ずあるはずだ 六道骸の力と引き替えに君を失うことになってしまったら ツナたちの受けるダメージは決して小さくはないと思うがな」 
 
 
 
 
 本当はわざわざ言われなくても気が付いている筈
 彼らを想う彼女の心もまた 同じ形をしているに違いないのだから
 
 
 
 
 
 「いいか? これから俺の言うことを黙って聞いてくれ」
 「………」
 涙をポロポロと零したまま それでも必死といった感じで俯いてくれる
 「リング戦で戦ったあのヴァリアーの赤ん坊は随分以前に亡くなっている」
 「嘘っ!?」
 「どうやら今回の件で巻き込まれたような気配もあって その死因にはまだ謎が多いんだ」
 「そんな…」
 「だがヴァリアーも欠員状態ではいられない 最近新しい術士を幹部として昇格させたんだ」
 あの鮫ですら手を焼く超問題児だということは あえて伏せることにして
 「その人はボスの為に戦ってくれるの?」
 「ああ そいつがきっと君のいい協力者になってくれるよ」
 
 
 
 
 だからもう 自分が役に立たないなんて思わなくていい
 君がこの世界へ訪れたのも 必ず意味のある出来事なのだから
 そう言いながら小さな手をそっと握ってくれる
 その温もりは彼女が『ボス』と呼ぶ少年とどこか似ているような気がした 
 
 
 
 
 「今はゆっくり休むといい」
 紫色の綺麗な光を放つサラサラの黒髪にそっと触れながら
 「大丈夫…全ての謎が明らかになる頃には なにもかも上手くいっているさ」
 胎児のように体を丸めて眠る君の額に そっと落とした優しいキス
 その意味は 十年たって君が大人になるまではまだ言えないけれど
 
 
 
 
 「…見たわよ」
 「ゲッ!? 毒サソ…」
 「散々泣かせた上に まだ小さい女の子に手ェ出すなんて 随分図太くなったじゃないの」
 「こっ これはお休みの挨拶というか ちょっとばっか慰めの意味も込めてだなあッ」
 「ロリコン」
 「お前にだけは言われたくねェェェッ」
 
 
 
 
 
END
 
 
 
 
イメージソング   『希望の唄』   FUNKY MONKY BABYS
更新日時:
2009/02/19
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Last updated: 2010/7/31