REBORN!

21      裁きの日   (ヴァリアー&キャバッローネ)
 
 
 
 
 
 「まったく…君はその頭の中まで筋肉で出来ているのかい」
 「う゛ぉおおいっっ、もういっぺん言ってみろやこのくそガキがああっっっ!!」
 
 
 
 
 長髪の剣士が手を伸ばして首根っこを締め上げようとしたが、黒衣の赤ん坊はヒラリと舞い上がってギリギリのところで避けてみせる。
「チィィッッ!」
城の入り口で武器さえ奪われていなければ、その小さな体を真っ二つに出来たものを…舌打ちするしかない今の自分が情けなかった。
「ちょっとあんたたち、いい加減にしなさいよ! 今ここでなにかをしでかしたら私たちどうなるのかわかったもんじゃないのよ」
ルッスーリアが慌てて止めたが、残りの二人…ベルフェゴールとレヴィは完全にだんまりを決め込んでいる。前者はスクアーロの不幸を楽しんでいる節があるし、後者はその不幸を心の底から期待しているからだ。
 そもそもの話はこうだった…ボンゴレ10代目の継承式でありながら幹部の一人である雨の守護者が不在であったこと、そしてその姿がまるで周囲を欺くかのように幻術で生み出されていたこと、それらについて銀髪の剣士がブチブチと文句を言い始めたのだ。それを耳にしたマーモンが言った言葉が冒頭のそれだった。
「少しくらい頭を巡らせればいくらでも分かることだろう。たとえ幻術を用いてでも雨の守護者をここに引っぱり出さなくてはならないこと、そしてこれまで頑なに継承を拒んでいた沢田綱吉がそれを受け入れた…おそらくは雨の守護者が何者かに倒され、その犯人がここにいるということさ」
 その場にいたヴァリアーの幹部たちは一斉に言葉を失う。しかしすぐにあたりをキョロキョロし始めたレヴィの頭をベルが激しく殴りつけた。
「なっっ? 何をするッッ」
「ここでビビったツラさらしてんじゃねーよ。それこそ敵らしき連中の思うツボだろ」
「ああーっ、もうっ。いい加減にしなさいって言ってるでしょっ」
ルッスーリアは小声で仲間を窘めながら、フーッと溜息をつく。
「微妙な立場の私たちを呼び寄せたのも、そういった理由があったからかもしれないわねえ」
「そんな脳天気な理由で済めばいいけれどね」
 マーモンは小さな体を後ろにそらしながらまだ若い10代目の守護者たちを見つめている。そして彼の視界の中心にはあの少女がいた。
「なんだよ、マーモンまでビビリ入ってんのかあ?」
「幻術とはいえ、山本武をこの場に登場させたのは相手の神経を逆なでする行為だろ。そんな頭に血が上った連中がここで大暴れしたら、こんな城一瞬で消滅するだろうさ」
その言葉が何気ないからこそ、他のメンバーの背に冷たい汗が伝う。最早ベルはもちろんスクアーロさえ口を挟むことは出来なかった。
「この場はきっとこれまでにないほど荒れるよ。おそらく敵と呼ばれる連中の目的は…」
 
 
 
 
 「…この場を術士ごとぶっ潰すことだと思うぜ」
 
 
 
 
 金髪の若者が口にした冷静な言葉に、彼の側に控えていた側近の背中にもまた冷たい何かが走った。
「しかしボス…俺にはどうもわからねぇ。あそこにいる山本だって、そりゃ若干おとなしくなってはいるが、緊張していると思えば特に違和感も感じないだろうし」
「それはあの子が未来で成長して帰ってきたからだろうな」
緊張しながらも気丈に振る舞うクロームを見て、ディーノの表情も僅かに和らいだ。
「まだ六道骸との差は大きいだろうが、クローム自身はもうツナの仲間としてかけがえのない存在になりつつあるんだろ。実際彼女の術に気がついているのは片手で数えられる程度しかいない筈だ。ヴァリアーでさえスクアーロとマーモンが限界ってとこか」
 ロマーリオはディーノにとってこれ以上ないほどの優秀な右腕だったが、今回の状況に対応できず、苦しそうに首を横に振った。
「ますます分からねぇ…そんな戦力が今まで誰にも気づかれず潜んでいられるものなのか?」
「さあな」
「ボス…」
「それにしてもぬかったぜ…ツナが10代目になると聞いて有頂天になっていたかもしれねぇな。肝心なところで黙っていたリボーンも水くさいが、恭弥がおとなしく従っている時点で気がつくべきだった。今となっちゃ警護を増員させることも難しい。ロマーリオ、出来る限りのファミリーをここへ呼び寄せることは可能か?」
「大半はイタリアにいるが、なんとかしてみよう」
「頼む。そして今の人員をクロームとランボに集中させてくれ」
 見えぬ敵は時雨蒼燕流の後継者を倒す者だ。女子供の区別をつけるとは思えないし、ものの数にも入れていないだろう。
(それでも一日が無事に過ぎてさえくれれば…)
ボンゴレに対してそれくらいしか出来ぬ今の自分を恥じつつ、それでも心の中で祈るように同じ言葉を繰り返していた。
 
 
 
 
 ーしかしその瞬間は 必ず訪れてしまうのだー
 
 
 
 
 
END
更新日時:
2010/07/31
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Last updated: 2010/7/31