FOR ME

12      ニューイヤー   ILLUSTLATION BY POOH様

いちばん近くにいてね     STORY BY YOSIKI
 
 
 
 
 たかが紙切れ一枚だと言う人もいるだろう。でもされど紙切れなのだ。一年の最初の日に引き当てたそれが今年の運命を左右する…ような気持ちになってしまうのは水崎悠里だけではないだろう。そんな真剣な様子を隣でエメラルドの瞳がじっと見つめている。
「けい…くぅ…ん」
「なんだ?」
「その…どうでした…?」
聞くだけ無駄かもしれないとわかっていながら、それでも尋ねずにいられない。
「…大吉」
「ホントに?」
「嘘ついてどうする? …ほら」
彼が手渡してくれたそれにはしっかりと大吉の二文字が輝いている。素敵な王子様相手では、幸運さえ避けて通ることが出来ないのだ。少なくとも悠里はそう信じていた。
「やっぱりぃ…」
 ますます困惑気味な悠里を見て、葉月珪もなんとなく不安になってくる。だいたいの理由を理解していてもだ。
「お前…どうだったんだ?」
「うっ…」
「見せてみろ」
意外にも彼女はそれを簡単に彼へと手渡した。意地を張って隠し通すかと思ったが、よっぽど結果に落胆したということなのだろう。珪は折り畳まれたそれをカサカサと音をたてながら開いてゆく。
「…凶?」
「読み上げないでもらえたら嬉しいんだけど」
「ああ、ごめん」
なるほど…新年早々この結果はありがたくないだろう。当てになるかどうかは別として。
「珪くん、笑っているでしょ?」
「えっ? あっ…」
そう聞かれて慌てて口を押さえたものの、指先ですら自分が無意識に微笑みを浮かべていたのだとはっきり教えてくれた。嘘をつけない彼はそのフォローさえ思いつかない。
「どっどうせーっ、私なんて私なんてーっ。氷室せんせにお説教されて、バレンタインチョコ失敗して尽くんにいたぶられて、新入生に同級生と間違えられて、体育祭は一着直前で転んで、花火大会の前日に熱出して、ナイトパレードの日は大雨で、ファッションショーも派手にこけちゃったりして、一流大学だって落ちちゃうんだーっっ」
 おろしたての振り袖を左右に振り乱しながら悠里はじたんだを踏んでいる。その姿はまるで小さな子供みたいだ。でも珪が笑いさえしなければ一瞬の落ち込みで済んだのかもしれない。
「私の気持ちなんか珪くんにはわからないんだぁ〜」
「少し落ち着け…たかがおみくじだろ」
「されどおみくじだもんっ」
ああ言えばこう言うのか…口から苦いため息がもれる。
「気にすることない…そんなの。あの箱の中には大吉なんていくらでも入っているもんだろ? かえって凶の方が少なくて稀少価値があるって聞いたことある」
「稀少価値なんていらないんだけどな」
「新しい年にそういう珍しいのを当てるのが大事なんじゃないのか?」
珪は持っていたおみくじを再び悠里の手に戻した。
「よく見てみろ。ほとんど努力でどうにでもなるって書いてある」
「本当…」
一つ一つを確認した後、恥ずかしさに我に返ったのか悠里はおみくじで顔を覆ってしまった。
「だったら大丈夫だ。お前…いつも頑張ってるから。運なんていくらでも変えられるって俺…そう思っているから」
とつとつと語る言葉にはとても重くて力強いものを感じる。その全てが真実なのだと思わせるほどに。
「だから…がんばれ」
「うんっ」
 話しながらも足は自然と前に進んでいたようだ。気がついた時二人はおみくじが結んである松の木までやってきていた。器用な手つきで大吉を高い位置に結ぶ。その直後に悠里がジャケットの裾を引っ張った。
「あのね…」
「どうした?」
すると突然自分の分のおみくじを差し出し、神様に祈るように両手を合わせる。
「どうかこいつめを珪くんの隣に結んでやってもらえませんか。ちよっとでも…ちょっとでも大吉の運がもらえるように」
気持ちの問題だからね…と拝まれるとそれを拒否することは出来ない。というよりその仕草がやっぱり可愛いかったのだ。
「…かしてみろ」
「本当?」
悠里の手からおみくじをスッと抜き取ると、自分の隣の…もっとも近い位置に結びつけた。その勢いにつられて二つのおみくじが仲良くフルフルと揺れる。
「でもこれで珪くんに凶が移っちゃったら困るね…」
「自分から言ったんだろ?」
「そうでした」
互いの身を寄せ合ってフフッと笑う。まるで二つの運を共有するかのように。
「まあ…一時間後にはおみくじを引いたこと自体を忘れているんだろうけどな」
「酷いっ! そんなことないもんっ」
「誉めてるんだ。その方が何があっても乗り越えられるだろうし…」
いつも頑張っている彼女のことだ。わざわざ紙に命令されなくても立派にやってのけるだろう。だとしたらそんな悠里と一緒にいられる自分の運は? …どうやら珪自身は忘れられない一枚になりそうだ。
「ああっ、また笑ってる〜」
「はいはい。行くぞ」
 
 
 
 
 
 
 それからきっかり1時間の後、喫茶アルカードでホットココアを飲む悠里に珪はこう問いかけた。
「なあ、悠里…」
「なあに?」
「おみくじ何を引いたか覚えているか?」
「…あれ?」
 
 
 
 
END
 
 
 
 
開設当初から日参させて頂いている大好きなサイト様『Happy Go Lucky』の管理人POOH様より、新年の企画として年賀状イラストを頂いてしまいましたっ。美しいイラストと繊細で泣ける創作に去年はメロメロキューだった私。このたびは本当にお世話になりました。ありがとうございました。澄んだ眼差しで熱く彼女を見つめる王子に激萌えーーーっっ。嬉しいです。これからも大切にさせていただきます。これからもどうぞ頑張って下さいね。
そしてこのイラストをイメージさせて創作なんぞを書かせて頂きました。お目汚し申し訳ありません。POOH様のイメージである『おみくじを高い位置に結んであげる王子』を意識したのですが、主人公がちょっと子供子供しすぎているかも? でも彼女が忘れてしまうのはおみくじの内容だけで、一緒に結んだこととかは絶対に忘れていないとフォローだけはしておかなくては。
更新日時:
2004/01/10
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Last updated: 2010/5/12