FOR ME

11      パーティーにて   ILLUSTLATION BY 深夜様

夢見るモダンクリスマス   STORY BY YOSIKI
 
 
 
 
 恩師も忙しく走り回るという12月、はばたき市の公園通り商店街は緑と赤のクリスマスカラーに染まる。天気も心配なしのショッピングモールの各店舗には工夫を凝らしたツリーやイルミネーションがサンタをせかすかのように輝いていた。年末の大きなイベントを幾つも控えた人々で通りもごった返しの状況だ。そんな中…。
「ちょーっとユーリ!? あんたいい加減にしなよーッ」
元気な女の子の声が聞こえてきたのはブティックソフイアであった。女の子らしい可愛いファッションを多く扱う人気店である。
「悠里ちゃん…大丈夫?」
「うん、ゴメンね。もうちょっとだから…」
 はばたき学園高等部の名物と化している三人娘の目的は、クリスマス時期に理事長宅で開催されるパーティーの衣装選びであった。しかし藤井奈津実はとうの昔に支払いを済ませ、ついでに次の季節の流行まで吟味をしている。あの紺野珠美でさえ必死といった感じで包みを抱きしめているではないか。もっとも彼女は今年の夏からネットや雑誌で研究を続けていたようだが。
「一応ここまで絞り込んでみたんだけどねー」
4着ほどを両手に抱えてフーッとため息をつく悠里であった。絞り込むまでここまでかかったのなら、一つに決定するまでに日が暮れてしまうだろう。
「あんたねー、もしかしたら珠プーののんびり病が伝染しちゃったんじゃないの?」
「奈津実ちゃん…」
「だってこんな高額な買い物なんて久々だもの。やっぱり迷っちゃうよぅ。なっちはどっちがいいと思う?」
「おやぁ? そんな久々の買い物を私たちに委ねてしまっていいわけぇ?」
 奈津実と悠里が漫才をしている間に、珠美は悠里の前に立ってドレスを吟味する。
「ねえ、この白いドレスがいいんじゃない?」
彼女が指したのは純白のシンプルなデザインのドレスだった。
「そお?」
悠里はそれを自分の体にあてて首を傾げる。まだまだ心は揺れているようだ。
「私もそれがいいと思うけどね。あんた細いからよく似合うと思うよ」
「でも…少しシンプルすぎない? パーティー用だからもっと派手な方でもいいような気がして」
「だったらこっちにするう? 派手だし、めちゃくちゃ目立つよー」
奈津実が取りだしたのは胸のあたりにでっかいハートの飾りがついたピンクのミニのドレスであった。
「やめてそれだけはおねがい…」
 珠美と同様に奈津実もまた白いドレスの支持者だった。後ろで結ぶリボンと揃いの手袋だけが飾りのシンプルなものではあったけれど。
「これならあんたの赤い髪にもはえると思うよ。派手なのは理事長んとこのツリーに任せておけばいいんだって」
そこまで言われたなら悠里も悪い気はしなかったらしい。散々待たされた買い物もここでようやく終了となった。
「でもさ、なにか素敵なアクセサリーでも欲しい…かな?」
支払いを済ませた悠里がぽつんと呟く。しかしそれを聞いた奈津実は彼女の背中を思いっきりどついた。
「いたいよぉー」
「何言ってんのよ。あんたにはとびっきりの金と緑の宝石があんじゃないのよ」
珠美も同意するかのように、拳を握りしめて真剣な顔で言った。
「そうだよ…王子様にエスコートしてもらえる人なんて悠里ちゃん以外にいないと思うよ」
「へっ? 私そんなアクセサリーもっていたっけ…?」
「とぼけなくてもよろしい!!」
眼鏡を上にあげるふりをしながらの奈津実の口調は、あの担任教師にそっくりだ。二人は顔を見合わせてクスクスと笑う。
「さーて予定時間ががっちり過ぎてしまったねえ。アルカードで少し休まない? 当然ミルクレープとレモンティーは誰かさんのおごりでさ」
「げっ!? うそっ」
「あのねっ、あそこの冬季限定白玉ぜんざいと梅昆布茶が美味しいの…」
時間と一緒に貴重なお小遣いも減らしてしまった悠里であった。
 
 
 
 
 
 クリスマスパーティー当日にあの日の出来事を一通り悠里から聞かされた珪は、しばらく目を見開いて驚いたような顔をしていたが、やがて自然と優しい笑みを浮かべていた。
「…そんなことがあったのか」
「そうなの。苦労して最後に二人に選んでもらったのがこのドレスなんだ。まあ別なことでもお金がかかっちゃったけどね」
でもそんな状況でさえ彼女は本当に楽しそうだった。どうかな…と言いながらスカートの裾をつまんで回転してみせる。肩をむき出しにしたデザインは年のわりに大人びた印象を受けるが、それでも白という色が彼女の純粋で可愛らしい雰囲気を引き立てている。大げさなアクセサリーがなくても、会場のあちこちで輝く電飾がキラキラ反射して何度も目を伏せたくなってしまった。
「ああ…よく似合ってる…そのドレス」
「ありがとう。本当はあんまり自信なかったんだ…二人が言ってた『金と緑のアクセサリー』も結局家にはなかったしね。いつか絶対二人に問いつめなくちゃ!」
「…がんばれ」
 金と緑の宝石…彼女は本気でわかっていないのだろう。しかしおそらくそれが自分のことなのだと珪は気がついていた。金は自分の髪の色で、緑は瞳の色を指しているはずだ。自身の魅力に微塵も気付いていないからその大げさ具合は正直ため息ものなのだけれど…その点はこの二人はとてもよく似ているのかもしれない。
(王子…か…)
その言葉はいつも彼の胸に複雑な響きを与えてくれる。幼い頃の思い出を忘れられない自分は、そしてそれを口に出来ない自分は本当の彼女の王子になれないのではないだろうか。でも…それでも内心は心から願っているのだ。この人に少しでも相応しい人間でありたいと。当時の無邪気さを失わぬまま再会出来た悠里の為に、宝石のほんの少しの欠片分でもかまわないから。
「でもこうして誉められるのも悪い気持ちじゃないよね? なんかふわふわして空まで飛べてしまいそう。ねえ、もう一度乾杯しない?」
「ああ」
 
 
 
 
 二人が良い気分でグラスを傾けた直後、背後から弾けた女の子の声が聞こえた。
「はーい、お二人さんッ。楽しんでる?」
「メリークリスマス、悠里ちゃん…」
水色のチャイナドレスで男性陣を悩殺している奈津実と、彼女の後ろに隠れるようにしてやって来た赤いドレスを着た珠美だった。
「メリークリスマス、なっちに珠ちゃん。この前はありがとね」
「いいっていいって。それよりどーよ葉月…悠里のドレスも散々悩んだかいがあったと思わない? まあ決定権は私らにあったようなもんだけどさ」
身体を思いっきりそらして威張るスタイルを示す奈津実であった。
「ああ…いいと思う…よく似合っている」
さっきと変わらぬ言葉だったが、それは彼なりの最高の賛美であり、それ以外の台詞が出てこないという意味でもある。
「プロのモデルからそんな言葉をもらえるなんて、私たちも結構凄いってことじゃない? ね、珠プー」
「奈津実ちゃん…もうその呼び方は…」
 珠美は俯いて自分の手元を見た瞬間に、ここまで来た本来の目的を思い出した。
「あのね悠里ちゃん…もしよかったらなんだけど、二人の写真を撮ってあげられたらなあって思って…」
遠慮がちに言ったのは葉月珪という人が現役のモデルさんだからだ。プライベートの写真など気軽に引き受けてくれるのかは素人の珠美にはわからなかった。
「どうする? 珪くん…隣が私でも許してもらえるかなあ」
「ああ、かまわない…嬉しいよ、俺も」
「だったら未来の売れっ子カメラマンにお任せだよっ」
奈津実は珠美からカメラを取り上げると、すぐにレンズを二人へと向けた。
「期待通りのいい顔してよ。はーい、チーズ…」
次の瞬間、まるでこの時を待っていたかのように珪は隣にいた悠里の手を掴んで自分へと引き寄せた。自然と彼女の身体は彼の腕の中に収まる。それを見た人々(特に女性)の怒濤の叫びでパーティーの空気が僅かに変わったものの、もちろん未来の自称名カメラマンがとっておきのシャッターチャンスを逃すことはなかった。 
 
 
 
 
END
 
 
 
 
深夜様のサイト『螺旋階段』様にて、キリ番をゲットした時に主人公と王子のラブラブイラストを生意気にもリクエストさせて頂いたものです。ドレスアップして良い雰囲気の素敵な二人をクリスマスにあわせてアップすることが出来ました。深夜さん私の我が儘リクエストを聞いてくださいまして本当にありがとうございました。期待以上の…イラストの二人と作者である深夜さんから幸せを分けてもらったかのように、心がポカポカしてしまった私です。しっかり抱きしめる王子の優しい腕にドキドキ。彼に身体ごと預けて微笑む主人公ちゃんにドキドキ。嬉しいです! ずーっと大切に飾らせて頂きますね。
そしてこの雰囲気に便乗し? おまけの創作を書きまして。こんなセクシーでキュートなドレスがテーマになりました。ラストに登場した写真がこのイラストという設定なのです。深夜様とガールズサイドを愛する皆さんにメリークリスマス!!
更新日時:
2003/12/26
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Last updated: 2010/5/12