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10      ダイブ! 王子×主人公     ILLUSTLATION BY 木田千鶴様

青春ダイビング!

HAPPINESS     STORY BY YOSHIKI
 
 
 
 
 ずっと想いを寄せていたその人は、初恋の王子様から愛しい恋人へと姿を変えてそこに立っていた。卒業式を終えた直後の教会の中で…悠里は銀色の贈り物を長かった時の重さと一緒に抱きしめる。すると自然に涙が溢れて頬を伝った。
「…悠里?」
「ごめんなさ…」
珪が彼女の泣き顔を見るのは、幼いときの別れ以来のことだった。はばたき学園高等部の在学中には一度も涙を流したことはなかった。それは再会する以前から変わらないことだろう。愛する人は約束を忘れてしまっていたとしても、それを破ることはなかったのだ。
「私…小さい頃のことを思い出せなかったけど…でも完全に忘れてしまったんじゃないの。ずっと夢に見ていたの。小さな男の子が離ればなれになってしまう王子様とお姫様の物語を聞かせてくれて…」
 夢の中で必死に顔を見ようとした。でもステンドグラスの光が邪魔をしてしまうのだ。そして彼の肝心な言葉を聞かないうちに目が覚めてしまう…その繰り返しだった。時には涙を浮かべてしまうこともあった。
「素敵な夢だとは思っていたけれど、私は不安でたまらなかったの。だっていつの間にか、その男の子が珪くんだったらいいのにって思い始めていたから」
悠里にとってはあまりにも贅沢すぎる考えだった。いつか迎えに来てくれる王子様が大好きな人だったらなんて。何度も期待をして、それらを心の中で打ち消してきた。
「それなのにこんな私のこと、ずっと忘れないでいてくれたんだよね…? こんな私でいいの? それでも愛してるって言ってくれるの?」
 俯いたまま泣きじゃくる悠里の前に、そっと手が差し伸べられた。
「…おいで」
悠里はその手の優しさを知っていた。時に美しい銀細工を生み出し、時に子猫たちをそっと抱き上げ、そして自分の手を決して離れぬように握りしめることを。
「珪くんっ!」
なんのためらいも持たずに彼の胸に飛び込んでゆく。高鳴る互いの心臓音を全身で感じた。
「ごめんね、ごめんなさ…」
3年間身につけていた制服が、最後の日に涙で濡れてゆく。
「いいんだ。俺…3年間本当に幸せだった。いつもお前が側にいてくれて」
珪の悠里を抱きしめる力が一層に強くなった。
「幸せすぎて贅沢になってたのは俺の方だ。あの小さい頃の約束があってもなくても今の気持ちは変わらないのに…それでも時々そのことを口にしては混乱させたよな…? だとしたら俺も同罪だ」
「珪く…ん…」
「だからもう泣くな。どこにも行かないから。もう夢の中でも泣かせるようなことはしないから」
 大好きな人の腕の中で、ずっと言えなかった言葉が自然と出てきた。それは彼の大好きな笑顔と一緒に…。
「好き…」
 
 
 
 
END
 
 
 
 
木田千鶴様のサイト『E・S・P』様にて999番をゲットした際に頂いたイラストです。リクエストとして図々しくも「制服姿の甘甘らぶらぶ王子×主」というのをお願いしてしまいました。そしたらば! らぶらぶというよりもすでに愛し合って離れようがない感じの素敵な二人が…しかもこぼれんばかりの二人の笑顔に、私もいっしょにときめきました。嬉しいです、千鶴様本当にありがとうございました。大事に大事にこちらでも飾らせていただきますね。
そしてときめき状態のままちょっとおまけの創作なんぞを…でもイラストの二人はあんなに幸せそうなのに、どうしてこんなしめっぽいのじゃ…ガクッ。
 
更新日時:
2003/07/10
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Last updated: 2010/5/12