LOVERS

93      もう逢わない方がいい   (海堂薫)
 
 
 
 
 
 「はじめましてっ」
 
 
 
 
 二つに結んだ栗色の髪を踊らせながら 頭を下げて
 次の瞬間には少し弱々しく微笑んで見せた
 その表情や仕草が可愛い子犬のようだと思ったと同時に
 優しい言葉を何一つ言えない自分が妙に腹立たしかった
 
 
 
 
 数週に一度の割合で会う約束をして
 その通りに待ち合わせをして 何気ない時間を一緒に過ごす
 だんだんと当たり前になってゆく それらの行為
 でもそれとは反対に どんどん下降してゆく自分の自信
 笑顔を向けてもらえるだけのことを 何もしてやれていない現実
 「なあ お前 俺と一緒にいて楽しいか?」
 「えっ…」
 「こんな俺なんかにかまわなくても 別に…」
 
 
 
 
 後悔した すぐに
 こんなこと言わなければよかったと
 小さく俯いて 溢れそうな涙を必死にこらえて
 
 
 
 
 「それで 結局そのまま付き合うことにしたのか」
 「仕方なかったんスよ…」
 
 
 
 
 その泣き顔さえ 可愛いと思ってしまったのだから
 
 
 
 
 
更新日時:
2005/02/22
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Last updated: 2010/5/14