『もう お別れだね』
『次はいつ会えるんだろう』
トンと肩を押されたら そんな本音が勝手に出てしまいそうだ
「それじゃ またね」
「ああ…気を付けて」
彼女が最終の電車に飛び乗ることが出来るギリギリの時間まで
2人はその全てを惜しむように見つめ合う
滅多に会えないことは初めから理解していた
でもそれはただ単に理解していると思いこんでいただけかもしれない
そのことを相手に悟られぬよう 何度も眼鏡を上にあげて
「どうかしたの?」
「えっ…?」
「どうしてそんなに泣きそうな顔をしているの…」
走り去る電車の音が耳に遠く響いてゆく
「ごめん 俺の時計が5分遅れていたみたいだ」
「えっ?」
「さっき時間を聞かれた時 嘘を教えてしまったかもしれない」
もう帰ることの出来ない人を きつく腕に抱きしめながら
「ひどい人ね」
「責任はとるよ?」
俺の背中に腕を回しながら 彼女は幸福そうに笑った
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