LOVERS

50      背中越しに抱き寄せられて   (切原赤也)
 
 
 
 
 
 「っつ…てて…」
 「ごめんっ ごめんねっ」
 放課後の部室で起こったパニックの原因というのは
 棚の上に常備されている薬箱
 それを取ろうとしてバランスを崩して そのまま落下した後
 後ろから支えてくれようとした後輩の上にしりもちをついてしまった
 「大丈夫? 赤也…」
 その時 ふいに伸びた両腕で
 気が付いた時には 後ろからきつく抱きしめられていた
 「赤也!?」
 「ねえ先輩 俺の心臓の音 わかる?」
 まるで背中をドンドンと叩くように感じられる鼓動
 羽交い締めにしている腕にそっと手を添えて 小さく頷いた
 「凄く激しい感じで響いてきいてる」
 「先輩のもわかるよ? 胸の向こうでトクトクいってる」
 耳元で優しく囁かれて 体がカッと熱くなるのがわかった
 男の人である彼が怖くて でも本当に大好きで
 恥ずかしくてたまらないくせに 今の状況が何よりも嬉しい
 その『ドンドン』と『トクトク』には
 私たちにしかわからない 色々なことが込められている
 「しばらくこのまんまでいてもいいッスか」
 「うん…」
 どうかその『しばらく』が 少しでも長く続きますように
 
 
 
 
 
更新日時:
2004/12/06
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Last updated: 2010/5/14