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33      眼鏡越しの景色   (柳生比呂士)
 
 
 
 
 
 毎週水曜日 私が図書室のカウンターに座る日
 まるで決められたかのようにやってくる人がいる
 「ヒロくん…」
 小さな声でそう呼びかけてみると
 すれ違うときにそっと手を振ってくれる
 そんな些細な事なんだけれど 心ごと溶けてしまいそうになっちゃうの
 (小学生か あんたらは! ←ギャラリーの声)
 
 
 
 
 ヒロくんはそこにいるだけで本当に素敵な人で
 あのいつもの席に座った時の横顔なんてね
 いつも以上に憂いがあって 大人びた感じで
 まるで一枚の絵を見ているみたいでね
 それから…それから…それから…
 
 
 
 
 「それでは 今日はこれで」
 「もう行っちゃうの?」
 「ええ もうテニス部の練習も始まりますし」
 厳しい表情かと思ったら…あれ? ちょっとだけ笑ってる?
 「それにもう充分楽しませてもらいましたから」
 「どんな本?」
 「いいえ あなたの百面相なんですけれどね」
 
 
 
 
 
更新日時:
2005/06/02
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Last updated: 2010/5/14