「しっかり捕まってろよ!」
排気管に負けない声で、ゼフェル様が私に言ったから。
腰に回した手に、ぎゅって力を入れた。
「!ば、馬鹿!そんなにくっつくんじゃねー!」
そしたら、真っ赤な顔で振り返ってもう一回、怒鳴られた。
そ、そうよね…あれじゃゼフェル様が苦しいわ。
もう少し力を抜いて。
でも、いつもよりずっと近くなっている距離に、どきどきして…
今日は前に約束していた、ゼフェル様の故郷に連れていってもらえるの。
ゼフェル様の生まれた場所って、どんなところだろう。
工業惑星だから、メタリックな感じかな?
今乗っている、エアバイクとかが一杯飛んでるのかな?
ふふ!楽しみだな。
空を走るなんて初めてのことだから、本当は少し怖かった。
でも、ゼフェル様と一緒だから。
こうしていると、怖さが段々薄れてゆく。
暖かい背中が、大丈夫だって言っているみたい。
実際は結構な時間を飛んでいたはずなのに着いてみたら、あっという間で。
楽しい時間は早く過ぎるって、本当なんだと思った。
エアバイクは立ち並ぶ高層ビルの間を通り抜け、入り組んだ路地の一角に降りた。
少し薄暗い…工業地?
この星自体が工業惑星だから、何処でもこんな感じなのかもしれないけれど…
「さ、着いたぜ。ここが俺の生まれた町だ。」
エンジンを切り、懐かしそうに、ゼフェル様は辺りを見回し、そう言った。
「変わっている所も多いけど、変わっていない所も結構残っているみたいだな…。」
そう、故郷とはいっても、ゼフェル様がここにいらした頃から、もう相当の時が過ぎているはず。
「懐っかしいなー、ほら、あれって俺が昔いた頃からあるんだぜ?よくまぁ、壊れねーで残ってたよなー。」
町の銅像一つにも、思い出があるんだろう。嬉しそうに見つめている。
今日ここに来ることはゼフェル様にとって辛いことだったんじゃないのかな…
本当は、来たくなかったんじゃないのかな…
「アンジェリーク?どうした?何か元気ないんじゃねーか?」
ぼんやりそんなことを考えていたら、ゼフェル様の心配そうな声。
「い、いえ、何でもないです。あの、ゼフェル様…。」
ここに来たのは…
「ん?」
言えない。
「いえ…何でもないです」
今更そんなことを聞くのも変だし。
「そっか?なら、良いけど…あ、そんでさ、あれは…」
今はゼフェル様が楽しそうにしてるから、私も笑っていよう。
「ゼフェル様、あれは何ですか?」
「あれはな……!?」
突然何かを見つけたのか、ゼフェル様が走り出す。
「あ、ゼフェル様、どうしたんですか?」
道の先に、一人の男の人。ゼフェル様と同じ年頃の…
「おい、おめー!!」
その人の腕を掴み、怒鳴りつけるような勢いで話し掛ける。
「ちょっと、いきなり何ですか?」
驚き、そして次に迷惑そうにその手は振り払われた。
「…あ…ああ、すまねー…その、人違いだ…。」
それって…
その人が立ち去った後も、ゼフェル様はその場にじっと立っている。
間違えたのは…多分。
「ゼフェル様…。」
掛ける言葉が見つからない。
「は、はは…馬鹿みてー…居る訳ないよな…。」
振り返ったゼフェル様の顔は今にも泣いてしまいそうな…迷子の子供のような、そんな感じで。
「ごめんなさいっ…。」
私が馬鹿だったんだ。何で連れてきて欲しいなんて、思ったんだろう。
「な、何で、おめーが泣いてんだよ?」
「ごめんなさい…私が連れて、来て…なんて言った…から…。」
涙が後から後から零れてくる。
「ば、馬鹿、おめーのせいじゃねーって…おい、泣くなよ…。
「だっ…て…ゼフェル様…誰も…ってる人…くて…だから…」
絶対辛いはずだ。
こんなことも判らずに、ただ浮かれていた自分が嫌になる。
「だーっ!もう、いい加減にしろって!」
「!ゼフェル様、ちょ…痛っ…痛いです…。」
泣いていた私の顔を無理矢理上げて、服の袖でゴシゴシ涙を拭かれる。
「いいか?俺は、来たくてここに来たんだからな!おめーに言われたからってだけじゃねーぞ!」
怒ってる…の?
「まだ判んねーか?あのな、俺が、おめーをここに連れてきたかったから来たんだ!
それで何があっても、おめーがそれで泣く事はねーんだよ!判ったか!!」
連れて…来たかった?
「だから、気にすんな。それに俺、今は一人じゃねーだろ?」
それって…
「おめーが…その、側にいてくれれば…」
それって。
「ゼフェル様、私ずっと側にいます!絶対、絶対、ずーっと側にいますから!!」
何があっても。
「わ、馬鹿、離れろって、こら。」
これから先、どんなことがあっても、貴方の側にいたい。
「ったく…しょうがねーやつ…。」
照れながら、でもそっと抱きしめてくれる、貴方の側に。
「ゼフェル様、大好き。」
FIN
じゅんた様のサイト『鋼羽天使』様でキリ番500をゲットした際に頂いた創作を、ようやくこちらでも公開できました。可愛くて、でもかなり切なくて、とても素敵なお話です。コレットちゃんのモノローグという形ですが、わし自身はゼー様の方に気持ちが入ってしまって…アンジェちゃんなんて優しい女の子なのーッッッ、と泣きそうになってしまいました。そしてつい何も罪のないはずの通行人Aに八つ当たりもしてしまいました。
じゅんた様本当にありがとうございました。この創作が私たちの運命の黒い糸のはじまりでしたね。えへへへー離しませんぜ。
|