LOVERS

62      もう黙って   (真田弦一郎)
 
 
 
 
 
 「まったくもって 嘆かわしいことだとは思わないか!?」
 「はあ?」
 ランチを向かい合って食べていた時の いきなりの一言
 ちょっと私 何かいけないことでもしましたっけ
 
 
 
 
 「たかがチョコレートくらいで 皆が浮かれている」
 「そうね」
 理由はカレンダーが知っている 2月14日とはそういう日
 クラスどころか 日本中がはしゃいでいるはず
 打ち明けたい女の子と それを待つ男の子
 …まあ人気の高い男子テニス部の面々なら 
 それとは違う悩みも抱いていそうだけれど
 
 
 
 
 「大体学生の本分というものはだな…」
 「弦一郎」
 「なんだ」
 「デザート食べない?」
 そう言って 最後に出すつもりのタッパーを置いた
 ほっと一息ついたように 彼もこほんと咳払いをする
 「いただこう」
 「どうぞ」
 
 
 
 
 今日のデザートは甘味を押さえた冷やしぜんざい
 いつものようにタッパーを開けた後の彼の表情は
 ある意味一生忘れることはないだろう
 人間て恥ずかしさのあまり硬直すると 真っ赤になって動かなくなるのね
 ねえ 欲しい時はちゃんと欲しいって言って?
 言葉で誘惑出来るほど 器用な性格をしているわけじゃないんだから
 
 
 
 
 「大変だったのよ
 白玉団子をハートの形にするのって」
 
 
 
 
 
更新日時:
2005/01/19
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Last updated: 2010/5/14