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45      不慮の事故   (珪×主人公 GS)
 
 
 
 
 
「ケイちゃん、ケイちゃん待ってーッ」
「こっちだよユーリ! 早く俺を捕まえてみてよ」
 はばたき学園の敷地内にある古い教会のあたりで子供たちの声が響いている。追いかけるのはまだ小さな女の子、そして彼女の動きを巧みに避けながら自由に走り回っているのは同じ年頃の男の子だった。白い季節が終わりを告げて新たな節目の季節がやって来た。桜の蕾も膨らみ始めている。暖かな風に誘われて彼らも無条件に走り回りたくなってきたのだ。女の子は決して動きが遅いわけではないようだが、男の子の運動神経にはかなわないようだった。
「ケイちゃんずるい…わざとユーリが捕まえられないようにしてるんだもの」
「そんなことなーいよ」
 珪は走りながら後についてきているはずの悠里へと振り返った。そしてその時自然と足下がおろそかになり…。
「うわああああーッッッ!!」
大きな木の根がむき出しになっている部分につまづいて、そのまま前に倒れ込んでしまう。
「いたたた…」
「ケイちゃん! …大丈夫?」
本当は痛さで泣き出したいほどだったが、心配げにやってくる悠里の前でそれは出来なかった。
「血が出てるよ。痛いでしょう?」
「俺、平気だもん…泣いたりなんかしないもん…」
それでも足とお尻が痛くて上手に立てそうにない。
「ちょっと待って。ユーリいいもの持っているから」
 ポケットの中から取りだしたのは可愛い絵のついた数枚の絆創膏だった。ハンカチで丁寧に傷口を拭くと、ペタッと貼ってあげた。
「ユーリ…」
「もう大丈夫。でもお家に帰ったらお薬つけてね」
「ありがとう」
「ユーリもね、いっぱい転ぶことがあるの。だから持って行きなさいって言われてるんだ」
ちょっとだけ看護婦さんの真似事が出来たのも嬉しいらしい。
 確かに傷口は痛むけれど…それでも珪は温かな幸せを感じていた。
(やっぱり俺のお姫様は素敵だ…)
ハンカチをしまおうとした手を掴んで自分の方へと引き寄せる。
「ユーリは優しいから大好きだよ」
「そお? ユーリもねーケイちゃんが世界で一番大好きなんだよ」
「俺…決めたから! 大きくなったらユーリのことを絶対にお嫁さんにするからね」
ちょっと情けない形でのプロポーズだったけれど、それでもよかった。ずっと一緒にいられるのなら…。
「本当? ユーリお嫁さんの白いドレス着られる?」
珪はそのまま頷いて、教会の方を小さな指で指した。
「あそこの教会で神様と約束するんだ。行こう」
「うんッ」
幼い2人の大切な約束を、運命の恋人たちが淡い光と共にそっと見守っていた。
 
 
 
 
END
 
 
 
 
〈イメージソング   『ジャングルジム』 尾崎亜美〉
更新日時:
2003/05/07
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Last updated: 2010/5/12