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1      女子高生   (瑞希&主人公 GS)
 
 
 
 
 
 昼休みに担任教師から呼び出しを受けていた悠里は、職員室から出てくるなりある人物に呼び止められた。
「ちょーっと、水崎さんっ」
高飛車で遠慮のないその声に振り向くと、そこには長い金色の髪を後へと翻した菫色の瞳の少女が立っていた。
「瑞希ちゃま! どうしたの?」
「どうもこうもないわよ。ミズキがあなたを探しているというのに呼び出しを受けているなんて」
「ゴメンね。来週にある課外授業の詳細を配っておきなさいって言われたの」
少し首を傾げてエヘッと笑う。その様子を見て瑞希は安心したようだった。この自慢の親友がアンドロイド教師から説教されていたら…その間に割り込んで怒鳴ってしまいそうな気持ちを彼女は持っていたのだ。
「そっ、そうだったの」
「うん」
 2人は並んで教室に向かって廊下を歩き始めた。
「相変わらず氷室先生に使われているのね」
プリントの束を抱えている悠里に向かって瑞希は遠慮なく言い放つ。だからといって担任教師から信頼されていないわけではないのだ。氷室学級のエースとして直接クラス委員を任命されているのである。しかしそれが瑞希はなんとなく不服であるらしい。そのせいで友人と過ごす時間を随分と削られているのだ。
「そんなことないよー。私こういうお世話係っぽいの嫌いじゃないし」
裏表のない笑顔を見せられると何も言えなくなってしまう。
「ところで瑞希ちゃまはどうかしたの?」
「うっ…」
 瑞希が次の言葉を思いとどまったのは、悠里が結構な量のプリントを抱えていたせいだ。須藤財閥の跡取り娘は初めから手伝おうという気持ちにはならないが、これでは渡したい物も渡せない。素早く背中へとそれを隠した。どうやら出直した方がよさそうだと思った時に再び彼女と目が合う。
「なにかあったの? 悩みでもある?」
「そっそれは…」
もうごまかしはきかないと思い、瑞希は背中にあった物を悠里へと差し出す。
「こっ…これっ!!」
「CDだね? 私が貸した」
「まあね。仕方ないから聞いてあげたわ」
「本当? ねえねえどうだった?」
 つい先日のことだが、放課後に2人で喫茶店に寄り道をした時にお互いの音楽の趣味の話になったのだった。財閥のお嬢様の自宅には弦楽四重奏が生で聞けるらしい。一般庶民の悠里はその感覚がわからぬまま彼女の話を聞いていた。その複雑そうな表情を見て、瑞希は自慢げにこう言い放ったのだ。
『あなたの好きな三流音楽も聞いてみたいわ』
『三流音楽…』
『よかったら持ってきてみたら?』
これはちょっとしたジョークのつもりであって、悠里の日頃聞いている音楽など自分に合うはずなどない…と暗に言っているのと同じだった。しかしその翌日に悠里は学校の廊下で一枚のCDを差し出したのだ。
『B’Zっていってね、日本で一番売れてるユニットなんだよー。髪の短い人がボーカルの稲葉さんで、サングラスの人がギターの松本さんね。すっごくかっこいいから聞いてみて! 私なんてアルバムもシングルもビデオもコレクションしてるんだから』
楽しそうに話している悠里を見て、瑞希は自分の言葉を悔いながらも断れなくなってしまった。しかし(あまり人に言ったことはなかったが)元々ドラマを見るのは大好きだったし、その主題歌に涙したこともあったのでとりあえずは受け取る事にしたのだ。しかし一番嬉しかったのは悠里が自分のために何かをしていくれることだったが。
 そして今日聞き終えたCDを持ってきたというわけだ。それは明るいブルーの空をバックにした2人の写真がジャケットになっているアルバムだった。
「…そのっ、まああなたにしてはいい方なんじゃない? 初めはうるさすぎるかなあって思ったけど。なかなか聞き応えはあるし、曲もいいし、詞なんかにも共感出来る部分があるし…」
「うれしーっ、瑞希ちゃまも気に入ってくれたんだねっ」
悠里は本当に嬉しそうに笑って瑞希の手を取り、はしゃいだ。
「そうだ! 実は夏にものすごく大きなライブをするんだよ。一緒に行く人を探していたんだけど、よかったら一緒に行かない?」
「ライブ…ミズキと一緒に?」
「私ファンクラブにも入っているし、頑張ってチケット取るよ。そうしたら生で稲葉さんの声が聞けるよ…ライブの2人はもう何倍も何倍も素敵なんだから!!」
そう叫ぶ少女はもはや氷室学級のエースではなく、その誘いを嬉しいと思いながら戸惑うのものも自称学園のエトワールではない素の女の子だった。
「そうね、あなたがどうしてもって言うのなら一緒に行ってさしあげてもよくってよ」
「やったーッ。楽しみにしているね。絶対ね!」
 
 
 
 
 その日の夜、須藤家に長年仕えている老紳士は一人娘のお嬢様からとんでもない買い物を命じられていた。
「びぃず…でございますか?」
「そうよ。お店に行って売っているのを全部買ってきて!」
「それはよろしゅうございますが…でもお嬢様にアクセサリーを作られるご趣味があったとは存じませんでした」
「ギャリソン! あなたって本当に何も知らないのね。B’Zは日本で一番売れている男性ユニットなのよ。髪が短いのがボーカルの稲葉さんで、サングラスをかけているのがギターの松本さん。2人とも世界に通じる最高のミュージシャンなんだから」
「はあ…そうでしたか」
髪の長さやサングラスと言われても、小学唱歌を愛する彼には通じるはずもなく、しかしそれでも瑞希がとても嬉しそうに報告するなど久しぶりだと思ってはいた。
「今年の夏に大きなライブコンサートをするんですって。一緒に行かなくちゃ泣くって水崎さんが言うものだから、仕方なく一緒に行ってあげることにしたの。その前に曲を覚えるくらいしておかないと失礼でしょ」
 その情熱を勉強か自分磨きに費やして欲しいとパリィにいる両親は思うかもしれない。でも忠実な執事は誘ってくれたあの可愛らしい女子生徒に感謝せずにはいられなかった。
(おそらくその歌手よりも、お友達と過ごせる時間が出来たことが嬉しくてたまらないのだろう)
「承知いたしました、瑞希様。明日までにびぃずとやらのレコードなどを買いそろえておきましょう」
「絶対よ。もしそれが出来なかったら…ミズキは本当に怒るんですからね!」
「わかっておりますとも」
一礼をして部屋を出てゆくギャリソン伊藤を見送った後、瑞希は窓を開けはなって小さく呟いた。
「楽しみだなあ…」
 
 
 
 
END
 
 
 
 
〈イメージソング   『STAY GREEN』 B’Z〉
更新日時:
2003/05/07
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Last updated: 2010/5/12